トヨタの未来
2023年1月26日、トヨタの社長が豊田章男氏から佐藤恒治氏に変わった。
日本経済新聞によると
「社長に就く佐藤氏は部品開発などの技術者出身で、現在は高級車「レクサス」部門のトップを務める。会見で「車の本質的な価値を守り、新しいモビリティーのかたちを提案したい。新たな時代に向けて挑戦する」と語った。豊田氏は「佐藤氏なら商品を軸にした経営を前に進めてくれる」と話した」とされる。
佐藤氏が考える「新しいモビリティのかたち」とはどのようなものか?が気になる。一方で豊田氏が語る「商品を軸にした経営」とは従来路線をそのまま継承して欲しいというようにも見える。
仮に私がトヨタの社長だったら、トヨタをどのような方向に導くのか、素人ながら考えてみた。
「液体水素自動車+自動運転」で「移動インフラ事業」への展開を図る
トヨタは2022年6月に液体水素カローラを発表し、液体水素を動力源とした自動車を作る技術力を持っている。
トヨタ、マイナス253℃の液体水素を用いて走る「液体水素カローラ」を世界初公開 圧縮気体水素燃焼カローラの進化形で航続距離は2倍に - Car Watch (impress.co.jp)
液体水素自動車のメリットはガソリン車に使われている既存のエンジン技術を活用できるという点に加えて、充填する水素ステーション側も水素を気化しないで済むため、エネルギー効率が高い。更にEVと比較しても充填時間が3分程度と圧倒的に短い。
一方でデメリットとしては液体水素は長期保存に向いておらず、停車している時間が長いと気化してしまう。
つまり、長距離を常時動いているような乗り物に最適な動力源なのだ。
ではこの液体水素自動車をどのように使うべきか?であるが、私のイメージに一番違いのがフランスのベンチャー企業Stanley Roboticsが開発した「Stan(スタン)」のような自動運転技術を持った自動運搬ロボットが高速道路を自動運転で走る未来である。
(1) Stanley Robotics reinvents compound operations for car logistics - YouTube
メインのターゲット顧客は長距離トラック
最初の主なターゲットは長距離トラックの自動運搬ロボットであろう。
顧客である運送会社は高速道路近くに設置された自動運搬ロボット中継基地までトラックで運び入れると、そこからこの自動運搬ロボットが高速道路を使って、顧客の指定場所に一番近い中継基地まで自動で運び入れる。
トラック運転手は中継基地まで運べば良いだけで、帰りはそこに待機している別の場所から届いたトラックを運転して、配送するだけで良い。つまりトラックドライバーは中継基地と地元の配送センターもしくは配送場所との往復だけで済むため、長距離トラックドライバーという仕事そのものが無くなる。
トヨタはこうしたトラックの移動に対する対価を顧客に請求すれば良い。
自動運転は歩行者等もいる市街地を走行するには技術的な難易度が高かったり、それを許容する世論の形成も実績を積まないと難しいが、高速道路上の人も乗車していないトラックを自動で運ぶということであれば、そのハードルは大きく下がるであろう。また、トヨタはリアルの自動運転技術を他社に先駆けて蓄積が可能となる。
このことは物流業界で懸念されている2024年問題であるドライバーの労働時間時間への制限に伴うコストアップの解決策にもなりうる。
走るコースが高速道路に限定されることによって、水素ステーションの設置個所も限定できるし、それぞれの水素ステーションの稼働率も上昇し、水素の単価を下げることにもつながる。結果的にトヨタが目指す燃料電池車の普及にもつながるのだ。
スピード違反、煽り運転の取り締まりも受託し、収益の多角化を図る
自動ロボットの数が増えれば、自動ロボットに周囲の自動車をモニターするカメラやセンサーを取り付けて、高速度路上を走る車の交通規則違反を検知するサービスも担うことが可能になるであろう。
警察からその監視業務を受託し、その受託料金も得ることができる。
現在はスピード違反の取り締まりなど、その検知ができるところでは減速はするものの、それ以外の道では覆面パトカーでもいない限り、取締ができない。この自動ロボットがそうした検知もできるようになれば、交通違反の取り締まりも自動化することができ、より安全に自動運転が可能な社会が実現しやすくなる。
若年ファミリー層の利用促進
長距離トラックで実績を積んだ後には同じく高速道路を走る乗客を乗せた高速バスへの展開が有望であろう。さらにその先に続くターゲット顧客は若年ファミリー層の利用促進である。特に大都市に住む若年ファミリー層ほど普段の日常生活に車を必要としていないし、駐車場や利用頻度を考えると車を所有するコストパフォーマンスが悪い。
ただし、特に幼い子供がいる家庭を中心に、周囲に迷惑を掛けずに移動をしたいというニーズはある。
そのようなファミリー層向けにも自宅近くの中継所でキャンピングカーを借り、高速道路移動中は自動運転で家族で映画鑑賞などを楽しみながら、キャンプ場近くの中継所まで自動ロボットで移動する。その後は、自分で車を運転して目的地のキャンプ場まで移動するといったことも可能になる。
所有からシェアの時代と呼ばれて久しいが、単なる車のサブスクリプションだけではなく、移動時間含めて楽しさを提供できるような価値を提供することが必要だ。
トヨタは自らが目指す未来を自ら構築できる稀有な存在
トヨタは将来のモビリティの動力源において様々なオプションを取れるように準備をしている点では外部環境の変化に柔軟に対応できる強みはあるものの、インフラ整備は国がやることであるというどことなく受身の姿勢を感じてしまう。
トヨタは自らが主体的に目指す未来を提示し、自らインフラ含めて整備していくだけの財務体質を持った会社であるはず。
車好きの社長であればあるほど、運転の楽しさ、加速スピード、ステアリング、EVではエンジン音がなく物足りないといった車の細かな走り心地ばかりに目が行ってしまうように見える。高級スポーツカーメーカーの社長であれば、その視点は重要かもしれないが、ほとんどの消費者のニーズは単純に便利に、安く移動する手段として、飛行機や電車、バスといった他の移動手段と比較して最適なものを選択することを忘れてはならない。
トヨタは競合他社と比較した車の販売台数といった従来の競争軸に囚われず、移動インフラ企業として、競合の車も自動で運んで収益にするなど、収益源を根本的に見直すような企業に自ら積極的に変貌していくべきで、ぜひ主体的に未来を作り出していって欲しい。
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