古畑任三郎について語る場のない大学生の独り言

「今回の犯人は、常にフェアプレイを好むスポーツマンです。人を殺したという以外は、実に公明正大な人物です。 そして、アメリカ大リーグで活躍する、ある日本人野球選手と全く同じ名前で、顔もそっくりです。しかし、別人です。お間違えのないように」

ドラマ好きならこれが古畑任三郎のフェアな殺人者の冒頭であることはおわかりでしょう。これの再放送が当時10歳前後であった自分と古畑の出会いであった。確かこの時は小学校が早く終わり、母親が出かけていたため、一人ぼっちで留守番していてたまたまテレビをつけたら再放送されていた。この頃はただ何となくしか見ていなかったが、高校生の時の休み期間中に一気に再放送され、それを全て録画して部活終わりの誰もいない家の中で昼飯を食べながら、ほとんどの古畑任三郎を視聴した。そしてそれら全てをDVDに焼いてもらった。

しかし中には再放送をやってくれないエピソードもある。そのような作品はレンタルビデオ店に行って借りたりもしていた。そして自分は”ほぼ”全てのエピソードを3回以上見た(間違われた男は2回かもしれない)。中には10回以上観たエピソードもあるぐらいだ。そんな現在21歳の大学生である。

なぜ最後に自分の年齢を記載したのか?それは周りに古畑任三郎を知っている人があまりにもいないからである。今年、田村正和さんが亡くなってしまったのもあり、古畑任三郎というシルエットは知っている大学生は多いがどのようなドラマなのかを知っている大学生は少ない。亡くなる前は分からない大学生が多かった為、

「ほら、ハリウッドザコシショウがカツラかぶって黒い服着てハンマーカンマーずっと言っているじゃん。そのものまねされている人だよ」

などと言うと知り合いは

「あぁー、あのめっちゃ面白いやつかー」

と言った。その時、口に出はさなかったが、「元ネタ知らないのにそんなに面白いと思っていたのか」と思った。そして知り合いに勧めるのエピソードを教えて欲しいと言われた際に

「イチローが犯人役やっているエピソードとか..」

などと言うと「それはネタバレにならないの?」と聞かれるレベルで古畑任三郎そのものを分かっていない発言をされる。なのでほとんど古畑任三郎を語る機会はない。

そして亡くなってしまった際に実家に連絡をして古畑任三郎のDVDを送ってくれと頼み、もう一度空いている時間を割き、間違われた男と古畑任三郎vsSMAP以外のエピソードを全て観た。SNSで話題になった今、古畑任三郎を制作するなら犯人役は誰かなどのtweetを見ていた。

そして一通り見た後、自分はなぜ古畑任三郎が好きなのかをもう一度考えた。そして中でも自分の好きな作品を挙げると何となくわかった気がした。自分が特に好きな作品は

・さよなら、DJ(桃井かおり)
・笑わない女(沢口靖子)
・再開(津川雅彦)
・ラスト・ダンス(松嶋菜々子)

である。まず順番が違うが「古い友人に会う」から説明させてもらう。

これはやはり結果として誰も死者が出さなかったことと古畑の「やり直しちゃいけないって、誰が決めたんですか?」という名言が飛び出し、そこまで親しいとは思っていなかった友人関係が結果として本当の友人になれたエピソードである。

このエピソードからやはり辛いことがあっても生きていかなければならないというメッセージを死体をいくつも見てきた古畑が言うことで言葉に重みがより感じられた。流石、三谷幸喜。殺人ミステリーのドラマの中で死のうとしている人を救うエピソードを持ってくるのだから。

なのでこのエピソードは自分の中では他のエピソードと比べて違う位置に存在させているエピソードである。

そして残った3作品についてだが、共通は犯人が全て女性であるという点である。そして自分はなぜ古畑が好きなのかを少し理解した。

古畑が女性に対して非常に優しいからである。

古畑の作品に出てくる女性犯人は全て美しく、強く、そして哀しく表されている。それを古畑が全て優しく包み込む。この部分が自分が古畑任三郎を好きな理由なのかもしれない。本当はフェミニストだからと言いたいが、21歳のまだまだ若造がフェミニストという単語を使いこなせるほど意味を理解できていない。しかしそのことを考えられるようになっただけでも自分にとっては成長なのかもしれない。

話を戻して「さよなら、DJ」である。

この好きなところはは男を奪われた女が、奪った女を殺す話であり、桃井かおりの演技が素晴らしく、女性の哀しさを内に秘めて隠しているような作品であり、その部分を古畑が突き止めた後に感じられるエピソードであるからだ。さらには自分の好きなラジオを設定に事件を描き、赤い洗面器の男の話が出てきた最初のエピソードであり、そしてなにより犯行を認めさせる一手となる古畑任三郎が歌うラストダンスは私にが流れてくるところもとても良かったからだ。この回をきっかけにお笑いラジオしか聴いてこなかった自分が忌野清志郎の「Oh! RADIO」と共に大人のディープなラジオに手を出すきっかけの一つになった。

続いて「笑わない女」だ。

このエピソードは推理を楽しむのではなく、彼女がどういうルールに基づき、殺人を行ったのかを理解していく過程がそのエピソードの面白さだと感じた。厳しい戒律を二度と破らないと誓い、殺人を犯すもその戒律が次々とヒントを与えてしまっている部分が、戒律に良くも悪くも縛られた犯人の哀しみを表しているようでとても印象に残るエピソードだと自分なりに思った。

そしてこの作品は一番好きなエピソードである。理由は殺害動機を追及する古畑に最大限の優しさを感じたからだ。なんの感情もなしに犯行動機を考えてみたところ、

「長年、戒律に厳しく生きている犯人が戒律を変えようとしている人に戒律を破るところを見られてしまった。その人は絶対に誰にも言わないと言ってくれ、更には戒律を変えることが難しいからそのまま学校をやめると言った。しかしそれだと戒律を破ったことを知っている人がいることに変わりないので、その人を殺した。」

と捉えた。だが「笑わない女」の犯人の私情を挟むと

「長年、戒律に厳しく生きて戒律のためにあらゆることを犠牲に生きてきた犯人が一瞬の気の迷いから戒律を破ってしまった。すぐに激しい後悔が襲うと同時にあろうことか戒律を変えようとしている人に、戒律を破るところを見られてしまった。しかも女性としての性の部分を。その人は絶対に誰にも言わないと言ってくれ、更には戒律を変えることが難しいからそのまま学校をやめると言った。しかしそれだと戒律を破ったことを知っている人がいることに変わりないので自分は二度と戒律を破らないことを決心し、その戒めとしてその人を殺した。」

と古畑は推理し言い表した。なんて女性に優しい男なんだとは思わないだろうか。私情を挟まない動機だと非常に理解しがたい犯行動機であり、極悪非道な犯人であろう。被害者は何も悪いことをしていない。どこにも殺される理由を作っていない。正直この2話後のエピソードで木村拓哉が演じる「赤か、青か」の犯行動機である観覧車が建ったせいで時計台が見えなくなってしまったから、爆破しようと思ったという動機とほとんど変わらないぐらい悪い動機と個人的には思った。

しかし古畑はキムタクにはビンタを浴びせ(観覧車に今泉くんが乗っていたという点もあるが)、沢口靖子には優しく寄り添ったのだ。多分この優しさが見えたから、このエピソードが一番好きなのであろう。そしてそんな部分が自分が古畑任三郎というドラマが好きな理由の大きな一つなのだろう。

最後に「ラスト・ダンス」だ。

これはもう完全に罪を犯す代わりに1日だけシンデレラになった女性と古畑のプラトニックな恋愛を描いたエピソードであり、まさしく古畑任三郎演じる田村正和に対する制作側のプレゼントのようなエピソードであった。この回の冒頭で

「最後の犯人は、その中でも特に美しく、
そして、特に、哀しい女性」

と語っている。その言葉通り、犯人は罪を犯す代わりに夢のような日々を過ごすことができた。しかしおとぎ話の世界ではないため、全てがハッピーエンドに向かうことなく、重い十字架を背負う生活へ進んでいくことになる。しかし古畑は絶望している彼女に対し、小石川ちなみの話を出し、「人は生まれ変われるのです」とまるでまだシンデレラのように幸せになれると生きる希望を与えているように思えた。そして古畑任三郎の内面を描くことで、より最後のダンスシーンがぎこちなくても美しく映り、数々の女性犯人を観てきた古畑にしか踊ることのできないダンスだと感じた。

こんな素晴らしいドラマを今の大学生はほとんど知らないのである。そんな悲しい大学生の独り言をここで思いっきり吐かせていただいた。最後にもし今、古畑が制作されるのならどんな犯人が良いか一人だけ書かせてほしい。

犯人役:広瀬すず 多忙な明るい新人警察官役
今年から配属された新人警察官。多忙な毎日を過ごす中、管轄する地域で殺人事件が発生。応援として駆けつけ、古畑と会い、そこでの言動から古畑が怪しく思い始める。犯行動機を見つけるところがキーポイントとなる。
選んだ理由:今の若手女優で演技力で右に出るものは中々いないことと、ラストレターで見せた、なにか哀しげな表情をできる人はそうそういなく、それこそ古畑任三郎に合った演技ができる数少ない1人だとと思ったから。

以上でつまらない独り言を終わりにします。

読んでくださりありがとうございした。

(2021/09/12)

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