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【質問箱】TC療法とdd-TC療法どっち?

私が代表を務める卵巣がん体験者の会スマイリーでは匿名で質問をしたい方のために「質問箱」を設置しています。
質問についての回答はスマイリーのTwitterやYouTubeチャンネルやnoteで回答していきます。
今日の質問と回答は以下のとおりです。

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お答えします

ご質問ありがとうございます。
私が代表を務める卵巣がん体験者の会スマイリーにも
パクリタキセル+カルボプラチンの3週ごとの治療(TC療法)
パクリタキセルと毎週+カルボプラチンの3週ごとの治療(dd-TC療法)

を初回化学療法として示していて、わかりづらいですよね。

ただ、私自身は卵巣がん患者であり医療従事者ではありません。
大変申し訳ないのですが「どっちがいい」「どっちを推奨する」ということを言ってしまうと医療法および医師法に抵触してしまう可能性があります。
なので、必ず治療するにあたっては主治医とお話をしてほしいこと、納得がいかない場合は婦人科腫瘍専門医もしくは婦人科の治療経験が豊富な腫瘍内科医のセカンドオピニオンを受け意思決定をしてください。

あなたがステージ1の卵巣がんであった場合

dd-TCをガイドラインで推奨する元となったJGOG3016臨床試験では、臨床試験の対象の患者さんはFIGO stage 2-4の患者さんとされています。
つまり臨床試験にはステージ1の患者さんが入っておらず、ステージ1の患者さんには有効性・安全性は示されていません。
ですから、あなたが手術の結果、ステージ1の卵巣がん(卵管がん、腹膜がん)であった場合はdd-TCが勧められることはないと思います。

現在、ステージ1の患者さん(一部除外基準あり)に本当に化学療法が必要なのかという臨床試験JGOG3020が進行中です。

あなたがステージ3以上の卵巣がんであった場合

ステージ3以上の卵巣がんであった場合、術後補助化学療法に加え維持科学療法として
ベバシズマブ
オラパリブ
ニラパリブ
ベバシズマブ+オラパリブ

の併用が検討されます。

手術で切除した卵巣がんにBRCA1/2遺伝子変異が見つかった場合にオラパリブが適用となります。
手術で切除した卵巣がんにHRD陽性が見つかった場合はベバシズマブとオラパリブの併用維持化学療法が適用となります。
また患者さんの病態に応じて、ベバシズマブ・ニラパリブでの維持化学療法が検討されます。

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すごいビジーな図で申し訳ないのですが、上記はベバシズマブの承認の元となったGOG218試験のデザインです。
ベバシズマブの治験ではパクリタキセル+カルボプラチンを3週ごと(every3wk)となっていて、dd-TCでの治験が行われていません。

また日本ではJGOG3016試験でdd-TCが素晴らしい結果を示したのですが、残念ながら海外で行われた追試では、若干試験デザインが違うため評価が難しいところはあるのですが、dd-TCが有意だという結果を示せなかったため、世界的なコンセンサス(意見の一致・合意)としてdd-TCのほうが良いと言える結果が得られなかったこともあり日本のガイドラインでも推奨の優先度はTC療法が上位に示されています。

余談ではありますが、初回化学療法でTC療法を使っておいた患者さんがプラチナ抵抗性再発治療時にパクリタキセルの毎週投与を使って奏功している臨床試験結果もあるので毎週投与はそのときのために取っておくという可能性もあるかなぁと・・・これは余談です。あくまでも余談です。

あなたがステージ2の卵巣がんの場合

一番悩むべきところがステージ2だったときの場合です。
ステージ2であればベバシズマブやPARP阻害薬の維持化学療法の効果は証明されていません。

その場合に参考になるのはやはりJGOG3016試験になり、この試験にはTC療法に319例、dd-TC療法に312例の患者さんが参加してくださっています。
中央年齢はどちらも57歳。
参加者のうちステージ2の卵巣がん患者さんはTC療法には17%、dd-TC療法には20%となっています。
結果、dd-TC療法が無増悪生存期間も5年生存期間も延長しており、この試験ではdd-TCが良いだろうとされましたが、ステージ3のところでもお話ししたとおり海外ではちょっとデザインが違うため厳密な評価は難しいですが、結果が再現できませんでした。

たまたまJGOG3016試験だけでいい結果が出たのか、はたまた日本人特有の何かがあるのかその辺はまだわからないといったところです。
著作権もあるのでここで示すことはできないのですが、JGOG3016試験ではFIGO Stageごとや、組織型ごとにもTC療法とdd-TC療法どちらが有意差があったか細かい分析がされています。

主治医とよく話し合って決めてもらえると良いかなと思います。

さいごに

まとめると

1)JGOG3016という日本人641人が参加した日本の臨床試験ではdd-TC療法の方が有意であったが、海外の追試では若干試験デザインが違うため厳密な評価は難しいがdd-TCが有意であると言える結果が得られなかった。
それはJGOG3016でたまたま有意差が出たのか、もしくは日本人特有の背景があるのかはわかっていない。
2)JGOG3016ではステージ1の患者さんは対象外であったため、ステージ1の患者さんにはdd-TCが良いというデータはない。
3)ステージ3の患者さんの場合、維持化学療法の臨床試験はTC療法で行われているものがあり、TC療法が提示されることが多いと思われる。
4)ベバシズマブについては最終解析が終わり一部の患者さんに対して維持化学療法の有用性は示されたけれども、オラパリブ・ニラパリブに関しては承認されてからの歴史が浅く最終解析でどうなるかも含めてもう少し標準治療と言えるようになるには時間がかかると思う(2020年ガイドラインの段階では標準治療ではない)。
5)ステージ2に関してはJGOG3016の試験結果についてそれをどう考えるか主治医としっかり話し合ってもらいたい。

ということまではガイドラインのなかにも示されていると思います。
どうか主治医との話し合いの参考になさってください。

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