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【質問箱】主治医から緩和治療を勧められた

私が代表を務める卵巣がん体験者の会スマイリーでは匿名で質問をしたい方のために「質問箱」を設置しています。
質問についての回答はスマイリーのTwitterやYouTubeチャンネルやnoteで回答していきます。
今日の質問と回答は以下のとおりです。

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回答します

お母さまが卵巣がんであること、腸閉塞を起こし、現在の病状から緩和医療をと勧められたこと・・・相談者さんの不安がとても伝わってきます。
患者会にも「もう抗がん剤治療を続けることが難しい」「緩和医療を中心でやっていきましょう」という提案を主治医からされたという患者さん・ご家族からの問い合わせはとても多いです。
今回、ご相談内容から、お母さまの治療歴・初発か再発かなどが全く読み取れないことから回答がとても難しいです。
あくまでも問い合わせの内容からできるだけ回答を絞り出したものであることをお許しください。

”治療をすることが難しい”には理由がある

治療をすることが難しい状況にはいくつか理由があります。
1)日本で卵巣がんに承認されている治療の選択肢を使い果たしてしまった。
2)全身状態が悪く治療に耐えられない。
3)その他

お母さまのケースは腸閉塞を起こしていること。
腸閉塞の原因となっている小腸や大腸にがんが張り付いていて取り除くことが難しい。
そのため全身状態が悪く抗がん剤治療は難しいということなのではないかと思います。

医師の表現はふた通りの解釈ができます

ただ、医師の表現はふた通りの解釈ができると思います。
1)腸閉塞を改善することができ全身状態が向上したならば抗がん剤治療ができるかもしれないので緩和医療をまず重点的にやってほしい。
(婦人科医師には小腸や大腸のがんが取り除けないのでその方法が難しい)
2)腸閉塞を改善することは難しく抗がん剤治療をもう諦めて欲しい。
本当のところはどちらでしょうか?

患者さんはこれからどう生きたいと思っていますか?

まず、当事者であるお母さまは医師の説明をどう受け止めておられ、これからについてどうしたいと思っておられるのでしょうか。
さきほど冒頭で患者会にもう治療ができないという段階での相談が多いのですが、そのうち1、2割は患者さんから「もう自分も治療をしたくないのだけど、家族が諦めてくれない」という相談もあるのです。
患者さんのなかには、ここまでもう十分がんばったので、あとは抗がん剤の副作用や癌の進行による辛い症状をとってできるだけ生活の質よく過ごしたいとおっしゃられる方もいます。
ただ、それが家族にうまく伝わらず治療が続いてしまい患者さんが辛い思いをしてしまうこともあります。
患者さんの考えは1日1日どころか10分すれば変わってしまうこともあります。
もう治療が嫌だなと思っても、やはり不安だから治療をしたいと思いが変わることも当たり前のようにあります。
人の心は複雑ですが、お母さまは、現状の腸閉塞が起きて辛い状況で、これからどうしたいと望まれているのかは確認された方が良いかと思います。

そのうえで家族にできること

さきほど冒頭に示させていただいたように治療ができないにもいろいろな意味があります。
ご家族から主治医にきちんと確認をされるのが良いかと思います。
どういう理由から治療ができないのか。
それは改善する見込みはないのか。
治療を強行したらどうなるのか。

ご家族の納得のためにもご家族自身が尋ねられると良いかと思います。

そのうえで、他の専門医に確認をしたい場合はセカンドオピニオンを求められて良いかと思います。
セカンドオピニオンはもちろんご本人が行けることが望ましいですが、ご家族だけでも大丈夫です。
その際は婦人科腫瘍専門医・もしくは婦人科がんの治療経験が豊富な腫瘍内科医をお勧めします。

主治医が言っていることが果たしてお母さまにとって最善なのかお母さまにとってこれからどうしていくことが最善なのかをセカンドオピニオンで尋ねてもらえると良いかと思います。

自由診療の免疫療法はお勧めしません

もし質問箱に書かれている免疫療法が自由診療で行われている高額な免疫療法であればお勧めはしません。
現在のところ、卵巣がんに有効性が科学的に高いかたちで証明された免疫療法はマイクロサテライト不安定性の特徴をお持ちの患者さんにキートルーダーが承認されている、それだけです。

自由診療の免疫療法は詐欺に近いものも多く値段に必ずしも見合っているとは思えません。
下記の記事は卵巣がんの治療経験も豊富な日本医大武蔵小杉病院腫瘍内科 勝俣範之先生が自由診療のクリニックに恫喝をされたという記事です。
告発者を会議室で“恫喝” 患者を食い物にする「がん免疫療法クリニック」 の許されざる実態 エビデンスのない“治療”で高額をむしり取る

もうひとつ参考になる動画をご紹介します。
がんの自費免疫療法ってどうなの?

インターネットで調べると自由診療のクリニックはいいことばかり書いていますが、実際のところ、私が支援をしていた患者さんのなかにも高額な自由診療を受けた後に予期せぬ重篤な副作用が起きて別の病院に運ばれ亡くなられたといういわゆる治療関連死されたケースも何度となく見ています。

患者会としては決して自由診療を推奨はしません。

どういう治療を受けることが最善か

先にご紹介した押川医師の動画でも触れられていますが、緩和治療も立派な治療法です。
まずはお母さまが苦しんでおられる腸閉塞の辛さを和らげる、それだけでも全身状態が改善するかもしれません。
もしお母さまの全身状態が改善されたらその時にまたできる治療はないか検討されてもいいのではないでしょうか。
婦人科の医師は改善する手立てをもっていないかもしれないけど、緩和治療医は何か知恵があるかもしれません。

実際私が支援をしていた患者さんで婦人科から緩和ケアに回された患者さんがいるのですが、緩和治療を受けたら全身状態が改善し抗がん剤治療に復帰された患者さんもおられます。
緩和治療医が実際に診察してみたら「抗がん剤まだできる」となって主治医には戻さずに別のがん治療医に紹介をされ治療している患者さんもいます。
もっとびっくりしたのはホスピスにはいることになったと話してくれた患者さんが、ホスピスに入ると辛さが抜けて元気になり退院してきて抗がん剤治療を再開されたこともあります。
(もちろんそういった症例はごくごく少ない奇跡的なものですが。)

2016年に日本癌治療学会で婦人科腫瘍の緩和医療を考える会が発表した「婦人科がん領域における緩和医療に関する実態調査―婦人科がん死亡症例の特徴について」というものがあります。

施設背景、連携体制、緩和医療、症状緩和及び終末期医療の提供体制、緩和的化学療法を調査項目とし、また2010-12年の死亡症例に関し最終化学療法投与日、死亡日、癌種を任意施設で調査したものです。
そのなかに

緩和的化学療法とは再発・再燃・進行がん症例において、治癒目的ではなく、QOL改善、延命、症状の緩和を目的として行う治療と定義した。
緩和的化学療法は92%の施設で行われており、予後予測が3-6ヶ月以上と考えた場合には、72%の施設で行われていた。

とされ、根治は難しくても延命を望むなどの理由から抗がん剤治療が行われている実態が記されています。
しかし調査から以下の実態がわかりました。

婦人科治療医の72%が予後予測が3か月以上を期待しているのに対して、最終化学療法投与日から死亡日までの日数は3か月未満だったことや、最終化学療法から1ヶ月以内に死亡した症例が18.4%を占めたことから、いつまで化学療法を継続していくかという問題点が浮かびあがった。

つまり延命を期待して抗がん剤治療をすることが果たして本当に良いことなのか。
もちろん治療には不確実性もあれば、個人差もあります。
患者さんが何を望むのかも差があります。

この婦人科腫瘍の緩和医療を考える会の調査研究はとても重要なもので、現在さらに臨床試験グループの力を借りて施設数や項目も再検討して研究が進んでいます。

患者さんにとってどうすることが最善なのか私たちは考え続けなければなりません。

最後に

私自身もがん患者の家族でもあり、世界で数百人しかいなく治療が確立していない難病患者の家族でもあり、家族は本人ではないからこその苦しみや悩みがあるなと実感している毎日です。
どこまで関われば良いのか、本人は痛いのか辛いのか苦しいのか・・・分かりたくてもわからない部分もあって悩みは増えるばかりです。

だからこそ、家族も可能であれば主治医からしっかりとお話を聞いて欲しいなと思いますし、場合によってはセカンドオピニオンを求められて専門性の高い治療経験豊富な医師に見解を求めて欲しいなと思います。
その時に大切なのは「患者さんにとってどうすることが最善か」「今やるべきことは何か」だと思います。

雑多にはなりましたし少しシビアな数字も出してしまいましたが、少しでも相談者様のお力に慣れればと思うので、もし追加で確認したいことなどあればスマイリーの別の相談(メールなど)で詳細をお聞かせください。
お母さまにとってどうすることがいいのか一緒に考えさせてもらえればと思います。

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