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病院が不正請求、今後に不安

三重県立総合医療センター産婦人科で不正請求報道

1月15日、リンクを掲載した日経新聞などが三重県立総合医療センターの産婦人科で不正請求が行われていたことを報じました。
不正請求の主な内容は腹腔鏡で行っていた手術を開腹手術を行ったとして保険請求をしていたものです。
また病理医が不在での腹腔鏡下手術をしており基準が満たされていないことが指摘されています。

東海テレビの報道では今回の件は「医師の認識の甘さ」「医師が着服したわけではない」ことなどを挙げ、文書で注意処分をしたと報じています。

過去にも別の産婦人科で同様の不正請求が

2018年埼玉県草加市立病院産婦人科でも腹腔鏡手術を開腹手術として不正請求する事案が起きています。
このときも第一報では子宮頸がんなどでということでありましたが、NHKが卵巣がんでも同様の手術を受けその後に亡くなられた患者がいることを報道しました。
新たに調べたところ基準を満たさぬまま7件の卵巣がん手術が行われていたことが認められました。

この医師は専門医の資格を有していなかったことなども問題点として大きく指摘をされました。
NHKが報じた内容には問題が発覚する4年前に学会でこの医師が発表を行った際に施設基準を満たしていないなどの指摘があったことが報じられました。

患者さんは適切な治療を受けたのか?

2018年の草加市民病院も今回の三重県立総合医療センターも本来保険適用されていない卵巣がんの手術が腹腔鏡で行われたこと、施設基準として必要だった病理医が一定期間不在であったことなど問題が重複していることがわかります。

すでに三重県で患者支援活動をされている方などからこの件について連絡をいただいております。

1つは「不正請求であるとしても、報道を見た患者さんが病院に不安を感じる場合は丁寧に説明をし適切にサポートをしてもらいたい」というもの。
これは当然のことですから三重県で患者支援活動をされている方から県に対して要望を出してもらいました。

1つは保険適用の対象ではない卵巣がんに対して腹腔鏡手術が実施されているのはどうしてか。
「果たして患者さんは適切な治療を受けられていたのか」ということです。

卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版(日本婦人科腫瘍学会/編 金原出版)には以下の通り記載されています。

CQ07卵巣癌に対して、開腹手術の代わりに腹腔鏡下手術は奨められるか?
「現時点では腹腔鏡下手術を実施しないことを提案する」
推奨の強さ2(↓)エビデンスレベルC(合意率100%)

※NCCNガイドライン(2019年:米国)では、「卵巣がんの手術はあくまで開腹手術が基本とあるとし、適切な早期癌患者(定型的な術式を行い得る症例)に対しては熟練した術者が行う腹腔鏡下手術、腫瘍減量手術は考慮されるとし、腹腔鏡下にoptimal surgery(残存腫瘍1センチ未満)が達成できないと判断される場合には開腹手術に速やかに移行すべき。」とされています。
CQ08腹腔内播種を有すると考えられる患者に対して、診断目的の腹腔鏡下手術は奨められるか?
「手術完遂度の予測、あるいは進行期の決定や組織採取を目的として実施することを提案する。」
推奨の強さ2(↑)エビデンスレベルB(合意率100%)
上皮性境界悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術については現時点でRCT(ランダム化比較試験)やメタアナリシスがなくエビデンス不足のため議論ができる状況にない。限られたケーススタディや後方視的研究では腹腔鏡下手術は開腹手術と同等の治療成績であると報告されているものの、不完全手術が多いことも事実である。エビデンスの構築については、日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会、日本産科婦人科内視鏡学会など関連学会で議論が必要である。

患者会としての回答

マスメディアの報道では「保険適用の対象ではない卵巣がんにおいて腹腔鏡下手術がされていた」ことは確認できるものの「それが適切な治療であったか」は判断ができません。

理由としては

1.卵巣がんである可能性が高いのに腹腔鏡下手術を実施(CQ07のケース)
2.卵巣がんの診断目的として腹腔鏡下手術を実施(CQ08のケース)
3.臨床試験として実施し患者の同意を取得して腹腔鏡下手術を実施(でもこれだとマスコミの報道にちょっと問題がある・ものすごい数のがん患者に行っているのでさすがにこれはないかなと思います)
4.他の婦人科の病気と思って腹腔鏡下手術をしたら卵巣がんだった

など現時点では判断ができません。

いずれにしよ、卵巣がん患者に腹腔鏡下手術が実施されているとしたら、ベネフィット(利点)だけではなくリスクや現時点での標準的治療を患者さんに説明をすることは大切です。

当該の医療機関で治療を受けた患者さんについては「自分は適切な医療を受けられたのか」主治医に確認をして当然だと私は思います。

ただし、地方に関しては「その病院くらいしか通える範囲に大きな病院がないために主治医に強く出れない」という患者さんもおられます。
その場合はセカンドオピニオンなどを求められてもよいかと思います。
今回は婦人科の手術のことが絡んで来ますので腫瘍内科医よりは婦人科の手術がわかる婦人科腫瘍専門医を私は奨めます。
公益社団法人日本婦人科腫瘍学会ホームページより、専門医制度のページを開いていただくと各地の専門医の一覧が表示されます。
またイシュラン婦人科がん病院・医師ガイドでも婦人科の先生がたがどういったタイプの先生なのかということがわかり参考になるかと思います。

自分の受ける治療は標準治療か確かめて

私たちはがんと診断されたとき(がんかもしれないと告げられたとき)、自分の死を身近に感じたり、これから先どうなるのか不安でいっぱいになります。

「悪いものは早く取ってもらいたい・なんとしても治りたい」という思いとともに「痛くて苦しいのは嫌だ」という思いも湧いてきます。
それはどの患者さんの相談を受けても感じることです。

インターネットにはそんな患者さんの気持ちを知ってか甘い言葉でインチキ医療に誘導するようなページがたくさんあり患者さんの気持ちは揺れます。
またがんを経験した患者さんからも根拠がよくわからない治療を奨められたという患者さんも多くいます。
私はがんと診断されたばかりの患者さん、再発をした患者さんにも標準治療についてお話をします。

冷静に自分の受ける手術や化学療法が標準治療であるかなんて考えることはなかなかできないと思います。
卵巣がんの治療に関しては国立がん研究センターの「卵巣がん 治療」のページがとてもよくできています。まずはここを確認しましょう。

標準治療をそれでも信頼できない方は下記を読んでもらえると良いかと思います。

私自身も2004年にパクリタキセルとカルボプラチンという抗がん剤治療を受けました。
吐き気などはあまり感じませんでしたが、体の痛みや痺れ・味覚障害・脱毛という副作用があり決して「楽だった」とはいいません。
しかしそれから17年で吐き気などにはイメンドやオランザピンが使えるようになりましたし、他の副作用の対策も徐々に進んでいることは患者支援をしていて感じます。

インターネットには反標準治療や効果が証明されていない悪質な代替医療の宣伝が多くあり、ときにそれを優先してしまう患者さんと出会うことも少なくありません。
でも下記にリンクさせてもらった勝俣先生のTwitterや、西先生のTwitterと同じく、私も卵巣がんの患者支援を15年近くしてきて、非標準治療だけで良くなったという患者さんを覚えていません。
逆に3C期や4期の患者さんで標準治療だけを受けて10年以上の長期生存されている患者さんはたくさん知っています。
著名な方ですと、がんピアネット福島の鈴木牧子理事長もそうです(スマイリーでも2019年3月の卵巣がんフォーラムでお話いただきました)。

今回、卵巣がんに対して保険適用ではない腹腔鏡下手術が行われたことは、卵巣がん患者さんに対して標準的治療がされていない不安を与えています。
患者会をしていて、患者の立場で標準治療をしていない最大のデメリットを挙げるとしたら、科学的根拠のない治療を受けたがために再発する率はどれくらいだろうと思ったり副作用のトラブルが起きた際に参考となるデータがないのです。
自身の受ける治療が標準治療であるかを確認するだけで腹腔鏡下手術を主治医が思いとどまったかもしれない、いや、これだけ腹腔鏡下手術をしていたら思いとどまらなかったかな・・・。
でも、なぜ腹腔鏡下手術を行うかなど患者さんも確認をして意思決定ができたんじゃないかなぁとご相談を受けていて思うのです。
(あくまでも仮定での話で、悪いのは不正請求をした病院であり医師です)

さいごに

今回、三重県でがん患者さんの支援活動をされている方がスマイリーに連絡を下さったうえで冷静に県に要望を出してくださっています。

治療を受けた(受けている)病院で何かしらの問題があったときに患者さんは不安になることは当然と思います。
どうかその不安を主治医に伝え、ご自身が受けた治療について適切であるかどうか確認をしっかりしてください。

もし私ども患者の支援が必要であればスマイリーに相談いただいても構いません。
最近、当該の病院に通院していた患者さんからご相談がありました。
患者さんの強い希望もあり少し距離は離れていますが兵庫県の信頼できる医師にセカンドオピニオンをお願いし、その後安心して過ごされていると伺っています。

私たちはがんと診断された時、最善の治療を受ける権利があります。
そしてガイドラインという指針があります。
それと違う場合は理由を知り、リスクやベネフィットを知り合意して治療をする権利があると思っています。

どうかひとりひとりの患者さんが最善の医療を受けられるようにと日々願って患者さんの相談対応をしています。

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