OUTSIDERS Inc.

雑誌、ウェブ、広告などのコンテンツを制作しているアウトサイダーズ株式会社です。遊びとし…

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雑誌、ウェブ、広告などのコンテンツを制作しているアウトサイダーズ株式会社です。遊びとして始めた個人的なプロジェクトをnoteで公開しています。楽しんでいただければ幸いです。

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最近の記事

Project / SIDE B 019 :エコー・スティービーの楽園

わが友、スティーブ・オルブライトの話をしよう。またの名をエコー・スティービー。出身はニューサウスウェールズって言ってたな。ある時フラリとこの町にやってきて、1年後にフラリと出ていったよ。スティービーは人気者だった。口を開けば冗談ばかりで、料理の腕前はダン・ハンター並み。もちろんサーフィンもプロ級さ。でも、スティービーは時々おかしくなることがある。ハンバーガーを食べてる時、ステフといいムードになってる夜、パドリングの最中……。急に悲しそうな顔になって、「声が聴こえる」とか呟きだ

    • Project / SIDE B 018 : 薄羽

      薄羽かつて「東国随一の駿馬」と噂された栗毛がいた。名を薄羽(うすばね)という。今も半島の名として残る一族の棟梁で、源頼朝の右腕ともなった三浦義澄が愛馬であった。義澄は伊豆で挙兵した頼朝に従って奮戦するも、平氏方の畠山重忠、江戸重長らが本拠の衣笠城に押し寄せると、城を捨て、海を渡り、安房国(千葉県)へと落ちのびんと画策する。浜に小舟を五艘繰り出し、義澄もそのひとつに乗り込んだ。畠山の追手が迫り、一刻も早く船を出したいが、肝心の義澄がこの期に及んで「薄羽を引いてこよ、船に乗せ

      • Project / SIDE B 017 : 溶ける

        溶けるアイツは酔っぱらうといつも、 めちゃめちゃ楽しそうに 波の向こうの世界について語りだす。 桃とマンゴーを足したような果物があって、 裸の女とヤシ酒と、あと何だっけ。 で、俺たちは日がな一日サーフィンして、 酔っぱらって寝て起きて、サーフィンする。 あとは時々、無我について考えるんだってさ。 Photo by Kentaro Kamata (His FB page)

        • Project / SIDE B 016 : Flower

          Flowerええ、モデルの人生は儚いものですよ。無我夢中でお仕事していたら、あっと云う間に歳を重ねているんだもの。わずかな間だけ咲く花のようなものね。サクラとか、シャクヤクとか。きれいに咲いていれば、立っても座っても褒められるのよ。でも花も人間も、そう長くは咲いていられないでしょう? 胸の奥に不安を抱えながら、勉強をして、技術を磨いて、どうにかやっていくの。鏡の前で髪をとかして、にっこり笑ってね。みんな同じじゃないかしら。でもわたしはこう思うのよ。誰かに求めていただいて、

        Project / SIDE B 019 :エコー・スティービーの楽園

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        • Project / SIDE B
          19本

        記事

          Project / SIDE B 015 : Highways of My Life

          Highways of My Life長く降り続いた雨が上がり ラジオのツマミを回して 調子の上がるステーションを探す 車はやがてハイウェイに入り 前を走るトラックの荷台が いまにも転げ落ちそうに揺れる いつか見た風景 雨上がりのドライブ 不思議と気が合った クルクル髪の子を乗せて 古いR&Bを聴きながら かすれた裏声で歌うんだ こんな空の夕暮れに 過ぎた話を思い出している 君はもう別の道へと 歩み去ったというのに ぐるぐる回る観覧車のようなハイウェイを 上から

          Project / SIDE B 015 : Highways of My Life

          Project / SIDE B 014 :最期の真実

          最期の真実ご覧のとおり、私はもう長くありません。この世の最期に、私と相棒だけが知っている真実をお話ししようと思います。と言いますのも、相棒は心労の故か発すべき言葉を失ってしまったからです。元は健康的な黄色だった肌も、すっかり緑色になってしまいました。つまりこの真実を皆様にお伝えできるのは、いまやこの私しかいないのです。そもそもなぜ私たちのような者が、この寂れた温泉街で息をひそめて暮らしているのか。皆様がそんな疑問を抱くのも無理はありません。しかしそれはひとまず脇に置いて、

          Project / SIDE B 014 :最期の真実

          Project / SIDE B 013 : Cogito ergo sum

          Cogito ergo sum世界はとても複雑に見える。 けど、意外と単純な気もしなくはない。 わたしはよくわかりやすいと言われる。 けど、意外なことを考えていたりもする。 何かがわかったような気がして、ふと目を閉じる。 涙がこぼれだしそうで、笑いだしそうで。 しばらくその心地よさを味わってから、 わたしと同時に生まれた姉妹たちに天啓を伝える。 わたしたちは生きているのだと。 Photo by Ukyo Koreeda (His FB page)

          Project / SIDE B 013 : Cogito ergo sum

          Project / SIDE B 012 : 蒟蒻の味

          蒟蒻の味東京へと帰る新幹線で、代わり映えのしない田舎の風景を眺めながら、新一は幕の内弁当の包みを開く。割り箸はうまく割れずに、片方の先が尖ってしまった。小さな梅干しを口に含んで、白いご飯をゆっくりと咀嚼する。車窓の風景はなおも変わらず、田んぼと畑と工場と住宅と。置き残してきた思いがふと脳裏をかすめ、これからのアレコレを案じて溜息をつく。誰かとともに生きることは、別の誰かとともに生きないことを意味する。だからといって何が悪いわけでもなく、そのようにして人生は過ぎていくのだろ

          Project / SIDE B 012 : 蒟蒻の味

          Project / SIDE B 011 : Charmes

          Charmes物語の終わりに現れるのは、白と黒の服を着た少女。 風になびく長い髪、澄んだ瞳、ほっそりとした指先。 ワイバーンの背に乗り、大海原をわたり、そびえる峰々を越え、 幻術を操る魔導士と戦い、命の尽きた先に待つ、冥府からの遣い。 その妖しいまでの美しさに魅惑され、 あらゆる冒険者は嬉々として死の国に誘われるという。 美しい少女が耳元で囁く。 君の始まりの場所に、君を純粋なまま返そう。 ヴァレリーいわく、残念ながらコンティニューは不可である。 Photo by Uk

          Project / SIDE B 011 : Charmes

          Project / SIDE B 010 : Rebellion

          Rebellion姉さんは右、僕は左。 同じ家に住んでるからって、偶然ばったり会ったからって、 一緒に帰らなくちゃならないわけじゃない。 どうせ角のコンビニで自分だけアイス買って、 僕にはひと口くれるだけなんだ。 それで何かすごいことしてやったみたいな顔して 風呂洗いとかベランダの洗濯物とか、 面倒なことをぜんぶ僕にやらせる。 だから僕は左の道にしようと思う。 途中で僕がいないことに気づいても完全に手遅れだ。 Photo by Ukyo Koreeda (His F

          Project / SIDE B 010 : Rebellion

          Project / SIDE B 009 : 俺とお前とロールキャベツ

          俺とお前とロールキャベツロールキャベツってさ、俺の中ではデミグラスとかクリームで煮込んだコッテリしたやつなんだよな。肉にも胡椒とかのスパイスが効いてて、パスタかなんかと一緒に食いたくなる感じ? わかるだろ? そう、上に生クリームかかってる感じのビジュアルで(笑)。な? でもさ、こないだ嫁が急にロールキャベツ作ったわけよ。したらなんかコンソメっぽい感じで、味がユルーいのよ。見た目も味もなんかユルーいの。俺もエッ? コレなんて料理?とか思ったんだけど、悪いから旨いとか言って

          Project / SIDE B 009 : 俺とお前とロールキャベツ

          Project / SIDE B 008 : Pigeon Master

          Pigeon Masterええ、鳩を鍛えています。主にレース用ですね。私が旗を振って、それに合わせて飛ぶ訓練をするわけです。指示通り動くようになるまで? そうだなあ3カ月くらいかかるんじゃないですか? 月火水とやって、木曜と日曜は休養日でね。なかには半年やっても覚えないのもいるんですよ。人間と一緒。そういう落ちこぼれは売り物にならないんで、そっと公園に放つわけです。ええ、3日分の餌と一緒に。そりゃ寂しいですよ。申し訳ない気持ちもありますしね。でもたまにすごく優秀なやつもい

          Project / SIDE B 008 : Pigeon Master

          Project / SIDE B 007 :100円玉

          100円玉おばあちゃんが施設に入って、もうすぐ2年。ときどきお見舞いに行くと、おばあちゃんはとても嬉しそうにカステラを切ってくれる。そして「下の売店でジュースでも買ってきなさい」と言いながら、100円玉をひとつくれるのだ。小ぶりな机の引き出しから、ちょっと申し訳なさそうに100円玉を取り出す。ときどき50円玉が2枚のこともある。お金が引き出しから出てくるのがおかしくて、前におばあちゃんに聞いてみた。「何でそんなところにしまってるの?」と。そしたら「鍵が掛かるところが他にないか

          Project / SIDE B 007 :100円玉

          Project / SIDE B 006 : 憧れのタンガニーカ

          憧れのタンガニーカ池上線の車内は午後の倦怠に包まれていた。それは新一も同じである。取引先に謝罪を入れた帰り道。これから社に戻って、上司に報告しなければならない。朝から胃がずっしりと重く、コーヒー以外を受けつけない。磯釣りに行きたいなあ、と新一は思う。週末の楽しみといえば、会社と自宅の間くらいにある城南島に出かけ、メバルやクロダイを狙うことだった。釣った魚を捌いて、吟醸酒とともにいただくのが滅法楽しい。食卓のかたわらにはノートPCを置き、YouTubeで動物のドキュメンタリ

          Project / SIDE B 006 : 憧れのタンガニーカ

          Project / SIDE B 005 : Reason

          Reason今日はあなたに会いたくない日。天気のいい土曜日じゃなくて、雨の水曜日くらいに会うのがちょうどいい。あなたはどうせ数学について話すのだろうし、わたしはどうせ眠くなってしまうから。公園のベンチや喫茶店で眠そうにしているわたしに、きっとあなたは気づかない。眠いのはあなたの話が退屈だからではなくて、あまりにも幸せだからという理由に気づかない。たぶん一生、気づかない。天気のいい土曜日に、あなたの横でウトウトする幸せなわたしを、わたしはあなたに一生、気づかれたくない。

          Project / SIDE B 005 : Reason

          Project / SIDE B 004 : 囁く

          囁く清純で儚げな少女の顔は偽りで、わたしをもっと見て、味わってと誘いかける悪魔的な娼婦というのも本当なのかどうか。その虚実のベールを俺は力づくで剥ぎ、幾重にも折りたたまれた柔らかい内側を突きまわし、抉り、掬いとる。混然としたカオスの源泉から、鮮やかな香気が立ちのぼるのを期待して。そしてついに辿りついた深奥の感触とともに、すべては幻のように消えている。夢の中にだけ現れる女のように。耳に息がかかるほど女の唇が近づき、そっとヒミツを囁かれたような罪悪感を残して、俺は呆然とコーヒ

          Project / SIDE B 004 : 囁く