見出し画像

日本に理想的なサンドイッチは存在しない?

日本での最高のサンドイッチ

私は、実は、サンドイッチ好きである。しかし、日本でなかなか理想的なサンドイッチにめぐり逢ったことがない。60数年の人生の中で、最高のサンドイッチは、幼少の頃食べていた、神田須田町に今もある近江屋洋菓子店のミックス・サンドイッチである(サンドイッチ自体が今もあるかどうかわからない。あったとしても、代替わりしているので、同じサンドイッチかどうかわからない)。サンドイッチ用としてもかなり薄く高さも控えめに切ったパンに、基本ワンアイテム(ハムサンドならハムだけ)しか挟んでいず、多くても例えばサラミにサラダ菜だけ。でも、かならずマスタードがしっかり効いていた。そして、(ちょうど江戸前の握りのネタとシャリのように)挟むパンと挟まれる具材がいい塩梅のしっとりした一体感を醸し出す。この店の、やはりしっとりした皮に極上のカスタードクリームがたっぷりと包まれたシュークリームとともに、サンドイッチは幼い私の大好物だった。

それにしても、日本にはダメな、勘違いしたサンドイッチが多すぎる。たいがいは、パンに挟むアイテムが多すぎる。ハムとキューリとレタスとポテサラとか、パンを3枚使って両側に違ったアイテムを挟み込むなど言語道断。それに、どれにも、マヨネーズが必要以上に入りすぎている。なのに、(寿司にわさびが必須のように)サンドイッチに必須なはずのマスタードが入っていないか、少なすぎる。「握り」のような一体感を醸し出すことなく、手の中でばらけるか、逆に具材の水分がパンに染みてビシャビシャになっていたり…。

ところが、京都に住み始め、家の近く(北白川界隈)に、かなり「理想」に近いサンドイッチを発見した。銀閣寺道から白川通りを少し下がったところにある老舗のパン屋「ヤマダベーカリー」のボックス型のハムサンドである(他は凡庸である)。具材はロースハムと薄切りキューリのみ。もちろんマスタードも効いている(私の好みではもう少し効かせた方がいい)。それが、見事な切り口を見せ、箱の中に六切れずつ整然と並んでいる。娘たちも大好物にしているので、小さい頃は二箱で済んだが、大きくなるにつれ、三箱、四箱と増えていった。

イギリスのパブのサンドイッチ

先に、プロテスタントの国の料理がなぜ不味いのか、オランダを例にとって書いたが、イギリスもまた負けず劣らず不味いものの楽園だ。私は、1980年代に行ったきり、その後この国には足を踏み入れていないので、現在の食状況は肌ではわからないが、当時のイギリス、特に「田舎」を旅すると、とんでもない代物に遭遇することが多かった。特に、(オランダ同様)肉などの素材がそこそこ良質にもかかわらず、それに「なんとかベリー」を使った、センスのかけらもないソースがたっぷりとかかっているためにせっかくの素材を台無しにしている料理が多かった(私はよくそのソースをぜんぶ避けて、塩・胡椒・マスタードなどをもらい味を付け直していた)。それなのに、なぜかかなり田舎のレストランに行っても必ず、料理の質に見合わないボルドーワインなんかが置いてある。

そんなやはり不味の楽園であるイギリスで、唯一「美味しい」と思ったのが、パブのサンドイッチだった。パンも粉の味がしっかりして、ハムやチーズなどの具材もなかなか説得力があり、しかも(握りの一体感とは違うが)サンドイッチとしての一体感がある場合が多い。それをつまみながら、その地方の地ビールをグビグビやるのは、他の国では味わえない贅沢なひとときだった。さすが、アフタヌーンティー&キューカンバー・サンドイッチの国ならではなのだろうか。

フランスの「サンドイッチ」、そしてアメリカの「ホットドッグ」(!?)

ところで、フランスの「サンドイッチ」をご存知だろうか。もちろん、パン屋によっては、イギリス風の体裁をしたサンドイッチを売っていないこともないが、フランスでサンドイッチといえば、バゲット半本に横から切れ目を入れ、割とシンプルな具材(ハムとバターだけとか)を挟み込んだだけのもの。それを一人で食べ切る。ホットドックも同様にバゲットを使い、ただしこちらは上に切れ目を入れ、そこにストラスブール・ソーセージを2本ほど挟み、チーズをかけて焼き目をつけて供す。それにたっぷりのディジョン・マスタードを塗って、ナイフフォークで食す。私は、そのホットドッグが好きで、よくカフェのテラスで、生ビール片手に頬張ったものだった。

前述のように、ホットドッグの「聖地」、ニューヨークのコニーアイランドでも、かの有名な「ネイサンズ」の“ホットドッグ”を食べようとしたが、それは単なるプロテスタント的な不味を悠々と超えて、化学的・生物学的にも「食品」として認知し販売してもいいものかどうか、生存の危機に見舞われる「何ものか」だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?