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第9回 『バニィ×ナックル‼』の完成、そして

 2012年4月初め、電撃小説大賞への応募作品『バニィ×ナックル‼』は完成した。

 何度も校正を重ねて、ページごとの演出(話の区切り)にまで気をつかって、ようやく出来上がった原稿を前に、私は打ち震えていた。

 いける。

 この原稿なら、何か賞を取れる。

 そう確信していた。

 完璧な作品ではない。強いて言うなら、もともと大量のキャラが出ていた連載小説を突貫工事で修正したものであるので、若干詰め込んだ感じは否めないかと思われた。

 それでも、とにかく読んでいて面白いと思える文章になるよう書いてゆき、狙い通りに仕上がったと感じていた。

 原稿は二部印刷した。

 一部は、電撃小説大賞へと応募するためのもの。

 そしてもう一部は、ある場所へと送るためのものだった。

 ※ ※ ※

 そのある場所へと原稿を送ってから、一週間ほど経った頃。

 会社の新年度の飲み会に出席していた私は、トイレに行くフリをして、居酒屋の外に出て、原稿の送り先へと電話をかけた。

 電話先は、石川県金沢市にある「パルパティ」というインドカレー屋だ。

 気まぐれで休むことも多い店なので、電話をかけても通じない可能性があった。だから、何日でもかけ直す覚悟で、まずは一回目の電話を試してみた。

 出た。

『はい、もしも~し』

 マスターの相変わらずのんびりした声が聞こえてくる。

「Kさん、お久しぶりです」
『お~、花堂君か! 元気しとった?』
「ええ、お陰様で」

 そこから簡単に近況報告をした後、いよいよ本題に入った。

「ところで、原稿を送ったのですが」
『ああ、あれね! おおきにね、読ませてもらったよ』

 来た。

 心臓がバクバクと鳴る。

 というのも、このパルパティのマスターには、過去に何度も自分の書いた小説を読んでもらって講評してもらっていたのだが、常に辛口なコメントを返されていたからだ。

 辛口とは言っても、理不尽なものではない。ちゃんと理にかなった至極当然の感想であり、また「このタイプの話なら○○を読んで勉強したほうがいい」等といった有益なアドバイスも混じっているものだった。だから、別にへこんではいなかった。

 ただ、毎回、「次こそは『面白かった』と言わせてみせる!」と強く思っているのに、その次の時には結局、また辛口のコメントをもらう……ということの繰り返しだったので、このマスターに『面白かった』を言わせるのは相当ハードルが高い、と痛感していた。

 そして今回は、辛口のコメントを返されるようでは駄目なのだ。

 もう電撃小説大賞に応募してしまい、締切日もとっくに過ぎた後なのだ。ここでマスターから高い評価がもらえなければ、一次選考の突破すら怪しい、と思われた。

 神にも祈る心地で、マスターの次の言葉を待った。

『面白かったよ~』

 信じがたいひと言が、マスターの口から発せられた。

『すごく上達しとるわ。一本のお話としてよくまとまっとるし、破綻も矛盾もない。これやったら、賞を取ってもおかしくないと、僕は思うよ』

 まさかのベタ褒め。

「あ、ありがとうございます」

 居酒屋の中から大声で笑う声が聞こえてきた。その、自分とは無関係な笑い声が、まるで自分と一緒になってマスターの高評価を喜んでくれているように感じられた。

『結果がわかったら教えてね』
「え、ええ。それじゃあまた」

 電話を切った後、思わずガッツポーズを取った。

「よしっ!!」

 確かな手応えを感じた瞬間だった。

 ※ ※ ※

 結果は、四次選考落ちだった。

 ガッカリはしたものの、応募総数6,771作品の内、三次選考通過61作品の中には残れたのだ。これまで伊豆文学賞にしか応募してこなかった自分にしては、十分誇っていい成果だと思っていた。

「次だ。次はもっと上を目指すぞ!」

 そう自分を奮い立たせて、新しい応募作品の構想へと取りかかっていた。

 ところが、四次選考落ちの手紙が来てから、だいぶ日にちが経ったある日、何の前触れもなく一本の電話が私の携帯電話にかかってきた。

『電撃文庫編集部のAと言いますが、逢巳花堂さんの電話でよろしいでしょうか?』

 その電話がかかってきた理由を悟った瞬間、体の深奥から燃え立つような喜びが湧き起こってきた。

 いわゆる「拾い上げ」の電話だった。

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