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言葉によってつくられる世界観について考える~フィクションのリアリティについて

長編小説を最初に書き始める時に考えたのは「世界観」をどう言葉で伝えるかでした。人が話す言葉も、自分をなんて呼ぶか、人と話すときにどういう言葉を選ぶかなどでその人の人柄(世界観)がつくられます。言葉の選択と世界観の関係を考えてみましたよ。

言語によって伝える世界観

世界観を伝える上で考えたのは「言葉」の使い方。「アルスラーン戦記」という作品を書かれた田中芳樹さんのインタビューに、以前こんなことが書かれていました。(完全引用ではなく覚書です)

口をへの字にした、と書いてしまえば簡単なんだけど、『へ』というひらがなが中世ペルシアを舞台にしているアルスラーン戦記にはないので、口の両端が下がり、真ん中が上がるような顔、みたいなまどろっこしい書き方をしなきゃいけなかった。

この考え方に、当時そのインタビューを読んだ自分はけっこう衝撃をいただいたんですね。

海外を舞台にした小説や漫画でも「マリアちゃん」みたいな呼びかけが使われているものってけっこうあるんですが、確かに「〇〇ちゃん」っていう表現は日本なら普通だけど、海外では名前に「ちゃん」は付けないわけで、それだけで世界観が破綻してしまうんだなと。

言われてみなければほとんど意識したことがありませんでしたが、長く残るような良い作品って世界観の整合性が取れているものが多い、というか良作の必須条件なのかな。

最近、鋼の錬金術師の荒川弘さんの絵で漫画化もされているアルスラーン戦記。原作も30年くらいかけて完結しました。軍略だったり王道だったりがすごくて、ものすごく大好きな小説で、もはやセリフや剣での攻撃手順とかけっこう覚えちゃってたりします。(マンガ版もほぼ同じなんだよね、すごい)

この世界観についての考え方を踏まえて作品を書こうと思うと、言葉遣いがけっこう難しくて。初めて書いた長編小説「夜の案内者」は医療ファンタジーなんですね。現実世界は舞台にしていないので、医療用語としての「レントゲン」「カラードップラー」みたいな表現がちょっと浮いちゃうんです。レントゲンってそもそも人名だし、レントゲンさんはこの世界にはいなかったはずなので。

だからそういう言葉は使わずに表現するんですが、完全にナシにしてしまうと、読者との「共通認識」として伝えるのがけっこう難しい。その辺りは人間世界から来ている主人公の心象的に「超音波っぽい」と考えさせることで整合性を取っています。

ちなみに、主人公が履いてる黒のサルエルパンツはずっと悩んでいたのですが2稿から「両足に向かってふくらんだ形をした黒い服」に変更しました。カタカナをなるべく使わないと最初から決めていたのですが、ポケットとかシャツとか、どうしても無理な部分があってそれらはそのままです。こういうの、漫画だったら絵柄で見せられるから説明いらないのになぁとヤキモキします。まぁそういうのは言葉を使う職業である小説家の腕の見せ所のはずなんですが。。

一番気になっていて、今もまだ解決が見つかってないのが「バックパック」最初は「帆布でできた荷物入れ」にしていたのですが、背負うものであることを簡単に伝えるにはリュックかナップザックかバックパックか、とかなんですが、バックパックって表現ってちょっと現代的すぎるかなと。頑張って背中袋とか背嚢とか言うと、今度は戦前・昭和感になりすぎるというか。一つの言葉選びで世界観が丸ごと変わってしまうところに、小説の言葉選択の難しさを感じています。

改めて文章にしてみて、世界観を言葉に乗せるっていうのは、まずどんな言葉を使うか「選択」するってことだなと考えさせられました。

現代アートもそうなんですが、自分がつくる側にまわった時に気づく多くの物事があって、それは自分が見る世界を鮮明にしてくれるなぁと思っています。うん、まぁ作り手って幸せだよね。

最近は無料で読める漫画サイトも増えてきていて、作品のレビューなんかに目を通すと、漫画ってフィクションのはずなのに「そこそこのリアリティ」が求められているっていうのも興味深いんですよね。

完全に魔法使いだらけの異世界設定ならともかく、現実味を帯びた設定の中で「そんな性格のキャラいない」「この条件ならとっくに死んでる」みたいなのがあると、読者はちゃんと興ざめしてしまうようなのです。(ジャンププラスのコメント欄を見てると、読者のリアル検証がすごくておもしろいです)

漫画や小説なんて、全部嘘に決まっている。ですが、それが現実感を帯びていると、物語に没入しやすいし、登場人物の性格にリアリティがあればあるほど、読み手が共感しやすくなる。良い作品ほど、登場人物に話しかけている読者が増えるんですよね。それはフィクションが現実として生きていることを表していて、自分もそういう世界がつくれるようになりたいです!

処女作の『夜の案内者』はマンガ化されたく、現在はネーム化してもらおうとがんばっています!この作業にも学びが多い!


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