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男子新体操にかかるコスト

映像を作るためのコスト

いろんな意味で、タイトルの言葉を考えることができると思う。選手や保護者の方々は、そのスポーツを行う当事者として、練習着・試合着・伴奏音楽・試合への参加費、部費やクラブの月謝など。

ファンにとっては、試合観戦のためのコスト(主に交通費や宿泊代、チケット代)。

そして私達のようなウェブメディアにとっても、コストはかかる。2019年、どのくらいのコストがかかり、そして収益はどれくらい上がったか、帳簿をつけて計算した。読者の皆様も想像してみて欲しい。一つの試合を取材しようとすると、複数のスタッフが必要だ。フロアサイドから撮影する者、正面のスタンド席から撮影する者、写真を撮る者。そして編集やYouTubeへのアップロード、SNSでの告知にも手間と時間がかかる。全日本インカレのあたりなど、スタッフは睡眠時間を削ってフル稼働。文字通り、寝る暇もない忙しさである(ちなみに専従のスタッフは一人もおらず、皆ほかに仕事を持っている)。

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(写真上:編集に使うパソコンもコストの一つだが、最近HDがやられて修理。)

取材先への交通費・宿泊費はもちろん、これらの作業をするスタッフの「人件費」というものも、本来、私達の仕事に含まれる「コスト」である。しかし、あえてスタッフが費やした「時間」はコストに含めず(つまりスタッフは「完全タダ働き」という前提で)コストと収益を計算してみたところ…

大赤字だった。

出費の半分以下しか収益が上がっていない。普通の企業ならば、これだけの赤字ビジネスを継続することは考えないだろうと思う。しかし私たちが普通の企業と違うのは、スタッフは男子新体操を溺愛してしまっている人々ばかりだ、という点である。つまり、赤字であっても(諸々のコストが自腹になっても)、それでも男子新体操を知ってもらいたい、と考えてしまう人々なのである。

そんな個々のスタッフの無償の愛に支えられ、応援!男子新体操は活動を続けてきたけれども、今後も彼らに甘え続けるわけにはいかないと思っている。収益を上げなければいけない。せめて、交通費・宿泊費・日当くらいは出せるようでなければならない。なぜなら、人の愛情・厚情に依存する体質になってしまったら、「無償で尽くしてくれて当たり前」という、人間としてあってはならない思考に陥る危険があるからだ。

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(写真上:SDカードやUSBメモリなど記憶媒体の数も膨大に)

YouTuberは甘い商売なのか

以前、私達のYouTubeチャンネルに「YouTubeで小金儲けしていいのか」みたいなコメントがついたことがある。その動画はたまたま著作権に引っかかっており、収益化されていない動画だったのでその旨回答したのだけれど、それ以来ずっと考えてきた。いつかは、根本的な理解を求める必要が出てくるだろう…と。

YouTubeからの収益は、応援!男子新体操の主な収入源である。動画に表示される広告のスポンサーが出す広告料が収益源という仕組みだ。つまり、私たちが得るお金は、どこかの企業が出している、ということになる。

私たちが取材し、作った動画にどこかの企業が広告を入れたいとオファーし(直接そのオファーが来るわけではもちろんないが)、その対価として広告料をもらうことに、どのようなデメリットがあるだろうか。また、その仕組みの中に、何らかの不健全な要素、あるいは「小金儲け」と揶揄されるような落ち度があるだろうか。

例えば、これが大手のメディアの取材だったら、「新体操を取材して小金儲けしていいのか」という非難をされることはあり得ないと思う。では大手メディアはどこから収入を得ているか?新聞や雑誌なら、その媒体を販売する利益もあるだろうが、もちろん広告料もある。テレビも、広告料。そういった仕組みは許容できても、ウェブメディアが広告によって収益を得るのは許容できないというのは、「ネット上に存在するものはタダであるべき」「ネットで文字や映像を売るなんてけしからん」という、デジタル時代に対するアレルギーか。

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(写真上:テレビ、ラジオ、新聞はもちろん、ウェブメディアも。あらゆるメディアで報道される箱根駅伝)

もしウェブメディアのあり方が許容できないというのであれば、一番良いのは「見ない」ことだ。私たちの動画は見るけれども、儲けるのは許せない、というのは、私たちに「タダ働きしろ」と迫っていることにほかならない。(私たちは実際、「タダ働き」に等しい働き方をしているだけでなく、取材費を自腹で賄っている)

フロアサイドは特等席?

スタッフはファンでもあるから、「演技を見たい」という気持ちは常にある。だが、動画を撮ることと「演技を見る」ことは両立しない、と私は考えている。公式試合の撮影権を主催者に許してもらって撮影に入っている以上、自分の最大限の注意力と集中力をもって、仕事に当たらなければならない。撮影に関してはズブの素人が、多くの人に見ていただくことになる動画を撮るのだ。

失敗してはならない。
これがこの選手の最後の演技になるかもしれない。
赤いマーク出てる?
コールの返事は上半身ズームで表情を。
最初のポーズで寄りすぎて、動き出しでフレームアウトしないように。
次のタンブ、速いからきっちり追う!
この選手のロープの軌道はおさめたい。
投げ、どこまで手具を入れるか?
ラストは向こう側、Aさんが押さえてくれるだろうから、こちらは退場の時の顔を追おう…
ガッツポーズ出るかな、客席まで含めて撮りたいな…

そんなことを考えながら、演技を堪能できる人もいる…かもしれないが、私には無理だ(笑)。正直、試合が終わった後も、何を見たかよく覚えていない、という状態が多い。

「大変なのよ」アピールをしたいのではない。これらの仕事に対して広告料という対価を得ることがイカンという人に、「そんな簡単にウハウハ儲かるようなもんじゃないよ」という実態を知っていただければと思う。「フロアサイドで演技を見られて、お金も儲かっていいことだらけじゃないか」と思われているとしたら、「お金は儲からないし、フロアサイドで私達がしているのは「演技を見る」ことではなく「仕事する」ということです」と答えたいと思う。

今後、応援!男子新体操の同業者が出てくる可能性も、多いにあると思っている。男子新体操のファンベースが今の100倍くらいになれば、採算の取れるビジネスになるんじゃないだろうか。問題は、そこまでファンを増やすのにどれだけの時間がかかるかだと思うが、それはまた別の機会に。




大会や取材の交通費、その他経費に充てさせていただきます。皆様のお力添えのおかげで少しずつ成長できております。感謝です🙏