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堀 孝輔(ほり こうすけ)- 同志社大学体操競技部

試合動画を編集する時、編集者の意図をことさら強調する場面を入れすぎないようにと気を遣う一方で、「これはどうしても入れたい」と思う場面に遭遇することがある。

堀孝輔選手の今年の全日本インカレの動画では、彼の練習着の背中にくっきりと浮かぶ「同志社大学 体操競技部」という文字が画面に大きく表示されるような編集を、あえてした。

三重県高田高校出身。中高一貫の進学校である。頭脳も顔もスタイルも、そして新体操の能力も。およそ望みうる全てを兼ね備えているかのような彼が高校生の時の東海大会だった。静岡県草薙の体育館で、試合を終えた彼の前に「写真待ち」する女の子たちの行列ができていたことを思い出す。ただし堀は、高校生の頃から俗世の些事からは一歩距離をおき、客観的かつ冷静な態度で自分の環境を見つめているような、そんな印象を与える選手であった。

堀が大学に進学する時、聡明な彼がどのような選択をするのか、非常に興味深かった。男子新体操選手にとって、将来の選択肢はそう多くはない。はたして彼が選んだのは、同志社大学であった。あえて「人の通らぬ道」を選ぶ。そこに堀孝輔の矜持があると、私は思った。

新体操の演技は、「面白さ」と「体感時間」が反比例すると私は思っている。堀孝輔の演技を見る時、それがどの種目であっても体感時間がものすごく短い。1分半があっという間に終わってしまう。高い精度を誇る手具操作、タンブリングがきっちりとまとまる端正さ、つなぎの上手さ、音楽の選曲眼、そして何よりあの、キャッチするまでの待ち時間がほとんどない投げには、堀の美学が凝縮されている。伸ばした腕にゆったりと落ちてくるキャッチも美しいけれども、堀のキャッチには、ギリギリのところまで無駄をそぎ落とした人間の動作だけが持ちうる、刹那的な美しさが存在する。堀がマットの上にいる間、眼を離すことはおろか、瞬きすることさえ惜しまれる。

そんな彼は、自分の演技を「面白みがない」と評している。これもまた堀一流の、自分を客観視する能力が発揮された結果なのだろうとは思うが、いささか自分に厳しすぎやしないか。いや堀君、あなたの演技は面白くてたまらないよ。

ところで彼は今年のクラブ選手権で優勝したが、その堀の動画に海外の人から「この競技はフェミニン(女性的)であればあるほど、高い点が出る傾向にあるようだ。男性性を消すことが求められるなんて、悲しいことだ。」といったコメントがついた。私に言わせれば、堀がフェミニンだなど、とんでもない。彼の細身の体つきを見て誤解しているのだろう。あれだけの手具操作と運動量を誇る堀を、フェミニン?性格的にも、彼ほど男っぽい選手もめったにいないのではないか。同志社大学に進学することを決めた理由は上記の記事に詳しいが、それを読んだら堀がどんな男かわかろうというものだ…いやしかし日本語で書かれたものを海外のファンが読めるわけは…

と、私が少し悔しい思いでいた時、別の海外の視聴者からこんな返信がついた。

I was counting the number of spins and turns he did when he throw his apparatus and the all the tumbling variations. Think he did decent on difficulty level and perfection on executions. Lol if this is feminine vulnerable am curious how a confident feminine looks like. He looks pretty self assured to me.
私は、投げの時に彼が回った回数と、タンブリングのバリエーションを数えてみました。難度レベルも高いし、実施力も高い。この演技が弱々しくてフェミニンだというなら(笑)、自信たっぷりの女性はどう見えるというのでしょうか。彼はかなり自信を持って演技しているように、私には見えますけどね。

男子新体操の動画が海外でも多く見られるようになり、海外にも確実に目の肥えたファンが作られていることを実感するやりとりである。

若い選手たちにあまりプレッシャーをかけるようなことは言うべきではないかもしれないが、堀孝輔が同志社大学で何を学びとっていくかが、今後の男子新体操界に少なからぬ影響を与えるのではないかと、私は思っている。

彼の背中に浮かんだ「同志社大学」という文字を見過ごすわけにはいかなかった、理由である。


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