国士舘大学 全カレ前練習 2024
国士舘大学多摩キャンパスで、全日本インカレ前の練習を見せていただいた。
個人
森谷祐夢(4年)
前年度学生チャンピオンとなった森谷祐夢選手は、今年の東インカレも制した。この日はあいにく不在であったが、おそらく日本一を照準にしつつ、インカレ二連覇を目指していることだろう。国士舘ジュニア1期生が大学4年生になり、どのような次元に到達するのだろうか。どこまでも美しく、精度の高いチャンピオン。全ての選手がこの夏、彼に挑む。
岡本瑠斗(4年)
その森谷選手の背中を追い続け、また、追い抜こうとしているのが同じ大学4年の岡本瑠斗(おかもと・るいと)選手だ。
昨年の全カレでは個人総合4位となり、「大ブレイク」という印象を残した。これほどの選手にもかかわらず、実は高校で新体操をやめようと思っていたという。彼は他県から国士舘高校に進学した。上を見ても下を見ても、全国優勝レベルの逸材がひしめく体育館。そして同期にはあの森谷祐夢がいる。彼は、「自分ができることは全てやる」つもりで、毎朝5時に体育館に来て練習を重ねたという。
「現行のルールは難しいが、試合までに自分ができる技を冷静にやっていく」「研究と努力を重ねた結果が今の自分」「きっかけはどこにでも隠れている」
岡本選手がこうした言葉で自分の新体操人生を語る時、社会人でジャパンを制した堀孝輔さんとの類似性を感じた。そして、「大ブレイク」という言葉で語られがちな成果の影には、それを裏付ける研究と努力が隠されていることを、もう何度目になるだろうか、自分はあらためて思い知るのである。
同期のライバルである森谷選手については、「自分をここまで成長させてくれた存在」と語る。生粋の国士舘育ちである森谷選手、そして他県から国士舘にきた岡本選手がこの夏、学生日本一を目指してしのぎを削る。
大塚幸市朗(4年)
森谷・岡本両名が国士舘個人のツートップだとすれば、「自分は部内ではまだまだ6、7番目」と語るのが同じ4年生の大塚幸市朗選手だ。謙虚で控え目な彼ではあるが、最上級生として個人の練習をリードする姿が随所に見られた。
千葉県袖ヶ浦高校の出身。お世話になった国士舘の大先輩、畠山可夢さんへの恩返しとして、新構成のクラブではラストポーズを同じにするという。
細身の選手という印象だったが、みると脚に立派な筋肉がついている。体力と筋力がついて、自分の演技に自信もついてきたそうだ。練習で独創性のある技をしていて驚いたが、今までよりも難易度が高い技に挑戦しているのだという。
個人の演技は、わずか数年前と比べても格段にレベルが上がった。見ているだけのファンとしては非常にスリリングで面白いが、山田小太郎監督が「今のルールでは、自分はやりたくないですねぇ」と苦笑いしておられたことが、その過酷さを物語る。
全カレでは「練習してきたことを信じて」演技したいと語る。もちろん、目標はジャパンだ。筆者は毎年、「4年生は全員ジャパンへ行かせてあげたい」と祈るような気持ちで見るのだけれども、彼がジャパンでクラブのラストポーズを決めたら…と想像するだけで胸がいっぱいになる、応援せずにはいられない選手である。
野村壮吾(3年)
埼玉栄高校在学時にユースで全国優勝も果たしている逸材。東インカレでは個人総合6位につけた。タンブリングは文句なく強い。向山蒼斗選手を彷彿とさせるスピード感もある。そこに加えて、手先の表現力が増した。マットを降りるとニコニコ元気で、かわいらしいイメージの選手だと思っていたのだが、この日の練習で見方が変わった。
ぼけたスクショしかなくて申し訳ないが、野村選手の演技に色艶が出てきたように思われた。もしかすると素人の自分の目が悪くて、以前からそうだったのに気づかなかっただけかもしれない。撮影した映像を見返してみる。いや、やっぱり違う。何かが以前とは違ってきている。
このタイプの選手が「表現力」や「オーラ」、「雰囲気」「色気」等々と呼ばれるプラスアルファを身につけてしまったら、なんだかとてつもない演技が誕生しそうな気がするのだ。
本人に話を聞いてみると、意外にも力が抜けていて冷静なのである。「今年は正直、優勝は無理だと思っています。17点台を出すのが目標です。でも4年生になる来年は。」決意が垣間見えた。
スティックでは、タンブリング中に手具を床に突き刺すかのような豪快な大技が入っている。「あれは、僕には似合わない繊細な技なんですけど」と笑う。
先日、Taeさんが公開してくれたこの写真にハッとした。強い一流の選手が持つ眼力を、野村選手は持っている。
高校で活躍した選手が経験する目に見えない壁のようなものが、インカレにはあるように思う。野村選手がその壁を突き破る瞬間が、間もなく来るような気がしてならない。
助川蒼太朗(成蹊大学大学院1年)
国士舘は彼の古巣である。ジュニア時代からこの体育館で練習してきた。「今日のメンバーの中では、山田先生の次くらいに自分が一番長くここにいるんじゃないかと思います」
大学院では音響について研究している。もちろん、自分の曲は自分で編集する。普段は国士舘ジュニアの指導もしているため、自分の練習に本腰を入れたのは夏休み以降だという。
国士舘高校から国士舘大学に進学しなかった理由を聞いてみた。
「踊るのが好きだし、人の演技をみるのも好きなので続けたいとは思っていましたが、国士舘で4年間部活として新体操をするというよりは、別の道を行ってみてもいいかなと感じていました」
成蹊大学から学連に選手登録するにあたって、学内で部員を最低5人集めなければいけない苦労があったとのこと。全カレでの目標は、「ノーミス、そして怪我をしないことですね」と少し目尻が笑った。人とは違うルートを通って全カレに出場する彼を、国士舘の仲間もあたたかく支える。
貝瀬壮(2年)
東インカレで7位につけ、全カレ出場を勝ち取った貝瀬壮(かいせ・たける)選手。光明学園相模原高校時代はユースで全国優勝。大学デビューの昨年は、全カレ14位、ジャパン18位。これからの伸び代に期待できる選手だ。
国士舘大学の選手紹介のページでは、「もうちょっと太ります。」と書いてあるのだが、本当にスラッと細い。
ちなみにお兄さんの貝瀬匠選手は団体選手である。(団体のサポートも積極的にこなしていた)
なぜ個人を?と聞いてみると、「ジュニアの頃から個人の方が好きでした。一人で伸び伸びとやりたいタイプなんです」とのこと。
全カレの目標は、全て17点台を出し、5位以内に入ること。ライバルは?と聞いてみると、「同学年ということで、葛西麗音(かさい・れのん)選手(青森大)を意識してしまいます」とのこと。東インカレで準優勝したライバルは、ロープ以外は17点台を出している。そのロープで17点台を出したのが貝瀬選手。同年代ライバルの全カレ対決を楽しみにしたい。
山田 遥大(3年)
国士舘で8番目の切符を手に入れたのが、山田遥大(やまだ・はると)選手だ。選手紹介には「今年は呼吸と鉄を大切に頑張ります!」と書いてある。実は彼は「鉄欠乏性貧血」であることがわかり、「少し動くだけでも心臓がバクバクしてしまう」ほどの症状に苦しんだという。
「振り付けの中に自分にしか出せない色を出していきたい」と語る彼の全カレでの目標は、「ノーミス、落下無し」。
国士舘の先輩である織田一明さんから受け継いだ衣装、そして指先の繊細な表現。そして同じく先輩である谷本龍之介さんの振り付けや構成を参考にしている。
織田一明さんといえば、ファンの絶大な人気を集めつつも、足の痛みに苦しんだ選手である。貧血という病気と戦い、マットで踊る彼の姿に歴代の選手たちの面影を重ねる…。そんな瞬間も、ファンにとってはたまらなく嬉しいものだ。
コーチの織田一明さんに、山田選手ってどんな選手?と質問してみると、次のようなコメントが。
この日の練習には参加していなかった星野太希選手、神山貴臣選手を含めた8名(国士舘大)と助川選手(成蹊大大学院)が、全日本インカレ(8月28〜30日・鹿児島アリーナ)に出場する。
この日インタビュー・撮影できた選手・OBのご紹介を少し。
太皷 真啓選手(2年)
鹿児島実業出身。お名前は「たいこ まひろ」と読む。国士舘のページでは「みんなに名前知ってもらえるといいなぁ…」とのコメントが。
鹿実がコミカル路線から真剣勝負にシフトした時のキャプテンである。昨年は大学の環境に慣れるのに精一杯だったが、今年は少しやりたいことができるようになってきたという。イタリア遠征にも参加し、コミカル時代の大きな歓声を思い出したそうだ。これからは個人の演技でもどんどん会場を沸かせてほしい。
青木涼多朗(1年)
OKB時代の彼に会ったことがある。大きな目がクリクリした、かわいらしいジュニアだった。コーチに厳しい指摘を受け、目に涙をいっぱい溜めていた。「こんな小さな子が泣きそうになりながらも、なぜ新体操を続けるのだろう」と当時思ったことを覚えている。その少年がもう、大学生になった。
OKBでは先生の指示に従うということが大事だったが、国士舘では学生主体で練習が行われるため、自分に足りないものを補うために考えたり、先輩に教えてもらったりする点が高校生との違いだという。「タンブリングの強さ、ダイナミックさ、一年前と比べた時の成長を見てほしい」とのこと。
吉留大夢選手(4年)
アキレス腱の怪我で東インカレは欠場となった吉留選手。この日の練習では、自分は動かずに同輩・後輩たちの面倒を一生懸命見ていた。故郷鹿児島での全カレに出場できないことは大変辛かったに違いない。ラストイヤー、クラ選での活躍を祈りたい。
砂田侑哉選手(3年)
広島県三次高校出身。3月の新潟演技会でも個人演技を披露してくれた。観客の前で演技する機会が増えるにつれ、彼の良さである伸びやかさがますます前面に出てくるのではないだろうか。
田中紳介選手(3年)
昨年は全日本インカレに出場したが、今年は惜しくも国士舘大学9番目の選手となった。
兄から受け継いだ試合着で彼がマットの上に立つと、それだけで迫力とオーラが感じられる。ファンの眼差しも熱い。
田中選手が見せたこのガッツポーズの写真は、筆者のお気に入りのひとつである。シックなモノトーンの試合着、控え目ながら嬉しさが滲む表情、客席にいるご家族に向けてだろうか、ガッツポーズする彼の後ろでは、国士舘の仲間たちが手をあげて彼の健闘をたたえている。試合会場でしか見られない、貴重な一瞬。兄・涼介さんの事故があった。新体操に対する恐怖感、複雑な思いもあっただろう。そして同じ国士舘出身の啓介さんの思いも受け継いで、戦い続ける彼を応援するファンは多い。
角張大陸選手(3年)
かくばり・もとむ選手。埼玉栄高校の出身であるが、実は宮城県キューブ新体操教室の出身で、星野太希選手(名取高校出身)とは同郷・同期である。
彼は通し演技をした後、両膝をついて呼吸を整えていた。試合では決してそのようなポーズを目にすることはないが、選手たちの演技後の呼吸の荒さが、このスポーツの激しさを物語る。
ところで彼の試合着の左袖の、この素晴らしく繊細な柄を見てほしい。各選手が様々な思いを込めて着用する衣装もまた、ファンの楽しみの一つである。
彼らは9月のクラブ選手権でジャパン出場をかけて戦う。
団体
新構成で挑んだ東インカレではミスが出てしまった、と髙橋稜コーチ。全カレでは、青森大学の連覇を阻止することが悲願である。なんとか一矢報いたい思いは指導者、選手の共通の思いだ。
この日は、A団体はユニフォームを着た通し練習が行われていたが、試合前の団体ゆえに詳しく書かずにおく。
B団体は昨年度の演技を。動と静のメリハリがあり、振り付けも特徴的で好きな演技だ。
団体は1回の試技で順位が決定する。何が起こるかわからない、その緊張感を是非会場でご覧ください。
全日本学生新体操選手権(全日本インカレ)の詳細はこちら。
国士舘大学YouTubeチャンネルはこちら
試合での写真撮影:Taeさん
この日の映像ダイジェストをYouTubeで公開中です!
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