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「イ」本(異本)注記の「イ」の字は、「他」の字のニンベン⁉

写本でよく見る「イ」本注記に関するトリビア

※今回の記事は、拙稿「『藤花礼讃』:『伊勢物語』一〇一段「あやしき藤の花」の和歌をめぐる、「論理国語」的な読解」 (『古代中世文学論考 第39集』所収、新典社 2019年11月)の136ページ、注(13)からの一部、抜粋に基づいています。

(筆者注記)

 さて、上記の《「イ」本(異本)注記の「イ」の字は、・・・》というタイトル中、「答え」はすでに示されているようなものですが……。

 岩波書店刊行、『日本古典籍書誌学辞典』(1999年)の「他本」の項に、「イ」記号について「『他』の偏を採り用いた記号であるとも考えられる」(三八〇頁・片桐洋一)とするのは、わかりにくい。(つまり、妥当ではない。)

 そもそも、片仮名の「イ」は、変体仮名「い」の字母である「伊」 の字の人偏(にんべん)由来とみるのが普通であろうし、「他」の人偏とは区別のしようがありません。
 「その他」の種々の書き入れと区別するための略号「」が、「他」の字の略だというのも、煩わしかろう。

 ちなみに、古文書学・書誌学に関する補足的な知識として、まず、現在通行の平仮名「い」の字母(もととなる文字)は「以」であり、問題の「異本」というのは、「伝来の異なる本」のことで、なぜか引き合いに出された「他本」というのは、文字通り「他の本」のことです。

※参考: 平仮名やカタカナの「字母」については、伊地知鐵男編 『増補改訂 仮名変体集(影印本シリーズ)』 (新典社 1966年)などがおすすめ。


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