見出し画像

ACPを考えるきっかけになるボードゲーム「エンディングゲーム」制作記

おうちの診療所では、日頃の診療や+αの活動で自らが「ワクワク」しながら働くことを大切にしています。今回は、おうちの診療所が運営に携わるヘルスケアコミュニティ「SHIP」が中心となって制作をしたアドバンス・ケア・プランニング(ACP;Advance Care Planning)について考える機会を提供するボードゲーム「エンディングゲーム」をご紹介します。

製品版「エンディングゲーム」

誰にでもおとずれる「人生の最期」。在宅医療を行うおうちの診療所では、多くの方の「最期」に出合います。自分らしい豊かな人生をおくるためには、人生の最期をどう過ごしたいか、あらかじめ考えておくことが大切です。アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)とは、将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者さんを主体にそのご家族や近しい人と、医療・ケアに携わる人たちが繰り返し話し合い、患者さんの意思決定を支援するプロセスのことを指します。「人生会議」という愛称もあります。

ACPは、どのように人生の最期を迎えるか考える上でとても重要なプロセスです。例えば、口から飲み込む力(嚥下機能)が弱ってきて、ご飯を食べられなくなった場合、栄養を取る方法として胃ろうや点滴が選択されることがあります。そうした可能性が出てきた場合に、「もし、口からご飯が食べられなくなったらどうする?」と、ご本人・ご家族の思いと、専門的な知識を持つ医療者が意見を交えながら話し合います。

また、具体的にどのようなケアを受けるかを計画するだけでなく、ご本人が医療や介護を受ける上でどのようなことを大切にしているか、例えば「できるだけ痛みがないようにしてほしい」「できるだけ最期まで自宅で家族と過ごしたい」といった価値観をあらかじめ共有しておくことも大切です。そうしておくことで、本人が意思を示せなくなっても、本人の希望に沿ったケアを行える可能性が高まりますし、代わりに意思決定するご家族の心理的負担も軽減されることが期待されます。

しかし、老いによる機能低下や、死を思わせる話は縁起が悪いとされ、たとえご家族であっても直接的に話すことを敬遠されることが多いのではないでしょうか。

そういった背景から、なかなかACPが浸透しないことに対して課題感を持っていたSHIPのメンバーが、「ゲームを使って、ACPの認知度を向上させられないか?」と提案し、今回の「エンディングゲーム」制作に至りました。


きっかけはコミュニティで行った「自由研究」

最初のきっかけは、「大人の自由研究」という企画でした。「大人の自由研究」とは、およそ年に1回行っているSHIP内の企画で、SHIPメンバーがそれぞれ興味のあるテーマに分かれてチームを作り、テーマに沿って活動します。ボードゲームの制作には、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士、デザイナーなどが参加しました。

他人の人生を通して自分の「最期のあり方」を考える

ボードゲームのコンセプトの軸は、「他者の人生を追体験する」。これは、「自分自身の死に目を向けるという体験だと重くなりすぎてしまう」「恋愛リアリティショーや体験談のように、他人の話だと思ったら客観的に考えやすくなるのではないか」といった意見をもとに決まりました。

 ゲームでは職業や性格が設定された6人のキャラクターから1人を選び、すごろく形式で進めます。「このキャラクターならどう考えるだろう」とポイントごとに考え、同時に自分の人生にも思いを馳せてもらえるように設計されています。

❶1人1枚ずつ人間カードを選び、キャラクターを設定する(裏を見てよい)
❷サイコロをふり、病気カードを引く(裏は見ない)
  1、2:高血圧症
  3、4:糖尿病
  5、6:高脂血症
❸アシストカードを購入するかどうかを決める(任意)
❹ゲーム終了後、お金の精算と人生の振り返りをする

2022年には、大阪府豊中市と協業し、支援を受けることとなりました。豊中市健康医療部健康政策課・都市経営部創造改革課の皆さんや大阪大学でACPの研究をされている方、ACPに精通されている司法書士の方の協力も得ることになり、いくつかの実証実験を経ながら、ボードゲームが形になってきました。

高いクオリティの製品版も完成し体験会を開催

内容はさらにブラッシュアップされ、ついに製品版の制作にも取り掛かることになりました。製品版は、一般的に売られているボードゲームのように、箱や駒も高いクオリティを目指して制作。2024年2月に完成しました。

体験会① 在宅看護センター Life&Com

内容やデザインが固まり、「ゲームを実際にやってもらいたいよね!」との意見がメンバーからあがるようになりました。これまでも、 同ゲームはこれまで、豊中市や他の自治体、日本プライマリ・ケア連合学会学術集会、おうちの診療所 中野などで体験会を開いてきました。さらに、これまでの活動に注目してくれた方々から「ゲームを体験したい!」という声を頂くようになり、体験会を開催するようになりました。

ここでは、神奈川県藤沢市にて訪問看護ステーションで藤沢市の在宅医療を支えている在宅看護センター Life&Comの皆さんに、事業所内のACPに関する研修の一部として、エンディングゲームを体験してもらった様子をご紹介します。

体験会には、訪問看護ステーションに在籍されている看護師、理学療法士、作業療法士、事務の方などが参加されました。


在宅看護センター Life&Comでの体験会の様子

参加者の皆さんは、熱心にエンディングゲームに取り組んでいただき、ワイワイと盛り上がる様子もみられました。

体験会の前後には、今回の研修を企画されたLife&Comの作業療法士さんからACPに関する講義があったり、事業所の代表をされている柳澤さんから実際の症例の話を交えた振り返りがされました。

体験会②  奈良県生駒市「ケアリンピック生駒」

次に、奈良県生駒市でもご要望いただき、体験会を実施してきました。今回は生駒市役所地域医療課が主催した「ケアリンピック生駒」という市民向けのイベントのコンテンツとして、おうちの診療所の石井洋介医師の講演と併せて、エンディングゲームの体験会を行いました。

おうちの診療所の石井医師の講演

体験会には、医療・介護従事者の方を含め、生駒市の住民の方が約30人参加いただきました。

「ケアリンピック生駒」での体験会の様子

イベントに参加された方から「ACPについて少し考えてみようと思った」との言葉をもらうこともでき、参加者の皆さんに楽しんでいただけました。

体験会を通して見えてきたこと

ゲームの体験会で参加者のみなさんとお話する中で、ACPの話から派生して、その地域における在宅医療の課題を聞くこともありました。

おうちの診療所が訪問診療をしている東京の都市部と比べ、体験会を実施した地域では「医療・介護リソースが少なくて、在宅で看取ることへのハードルが高い」「在宅で看取るケースが少なく、それもあってかACPの話がなかなか進まない」など、その地域における終末期ケアの課題をうかがったり、新たな発見もありました。

今後の活動について

エンディングゲームは現在、製品版も完成し、体験会も実施できています。

今後は、エンディングゲームの体験とACPに関する講演をセットにした体験会を、ACPに課題を感じている自治体や団体向けに開催し、ACPの浸透に貢献していきたいと考えています。

体験会に限らず、エンディングゲームにご興味のある方はacpあっとomniheal.jp(「あっと」のところを「@」に変更してください)までご連絡ください。

また、おうちの診療所 中野の地下にあるイベントスペース「おうちラボ 中野」では、随時ボードゲームの体験ができるように準備しています。このスペースは、中野院開院の際に、スタッフ有志がDIYして仕上げたスペースです。上記のメールアドレスまでご連絡いただければ、体験いただくことも可能ですので、ぜひご連絡ください。

おうちの診療所 中野の地下にある「おうちラボ中野」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?