子どもの大きななくしもの
子どもが大きな喪失体験をした時の
心ケアについて
参考にしていただけたらと思い書きました。
少々長文になりますが
よかったらお読みください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
息子が、保育園の年長さんになった時のこと。
あいこちゃんという
かわいい女の子が転園してきました。
高齢出産の末に授かった
というあいこちゃんは一人っ子で
大工さんの棟梁であるお父様が
いつも朝早く園に連れて来ていました。
保育園ではお迎えの時間がまちまちなので
お母さまにお会いしたことは
ありませんでした。
ある日、同じクラスのママから
気になることを耳にします。
「ねえ、知っている?あいこちゃんのママご病気みたいよ」
「詳しいことはわからないんだけど、あまりよくないみたい」
ある日、お迎えの時に
珍しく、あいこちゃんの
お父さまと一緒になりました。
普段は会釈をするくらいで
お話ししたことはなかったのですが
どうしても気になり、声をかけたのです。
「いつもお世話になっています。
しゅんすけの母です。
あの、つかぬことをお聞きしますが
奥さま、ご病気とうかがいました。
どんなご様子なのでしょう。
お悪いのですか?」
「はい。・・・実は乳がんで。あまりよくないんです。」
お父さまは、重い口調で
ゆっくりと話してくださいました。
ご実家は長野で
ご両親はすでに他界していること。
奥様の妹さんが長野に住んでいますが
ご家庭があるので、今は自分たちで
頑張っていると教えてくださいました。
唐突だったのですが
何か役に立てないかと思い鞄の中を探り
持っていたメモ紙に
携帯番号と我が家の地図を書き
お渡ししました。
「何かあったら、遠慮なくお電話ください。
あいこちゃんを一緒に連れて帰ります。
夕食も、お風呂も入れます。
お父さまはゆっくり
うちに迎えに来てください。
どうか頼ってくださいね。」
ご主人は、何度も何度も頭を下げ
帰っていかれました。
数日後、息子の園バックの中に
小さな手紙が入っていました。
あいこちゃんのお父さんからだと言います。
開けてみると、次のような文面が書かれていました。
『先日は、主人にお声をかけてくださったこと聞きました。
本当に嬉しかったです。
何かの時には頼らせていただくかもしれません。
今後とも、あいこのこと、どうぞよろしくお願いいたします』
文字は乱れ
とても苦しい状況の中で
書かれたのだと察しました。
その後も、連絡を待つのですが
お父様から電話が入ることはありませんでした。
それから、ちょうどひと月が経った頃
クラス連絡が回ってきました。
「あいこちゃんのママが、お亡くなリになりました」
すぐに皆で連絡を取り合い
斎場に向かいました。
お母さんの妹である叔母さんに、抱かれたあいこちゃん。
叔母さんの両肩をしっかり掴んで、顔を埋めています。
「この子泣けないんですよ」
「泣けたら楽だろうに、と思うんですが」
と叔母さんはおっしゃいます。
大きな悲しみを
小さなからだで震えながら
必死に耐えているようで
不憫でなりませんでした。
それから、一週間が経った後
お父さんに連れられ
あいこちゃんは登園を再開しました。
この頃、登園時間が早かった我が家では
到着は、いつもあいこちゃんの次。
息子が下駄箱に靴を入れていると
担任の先生がわざと
「あっ!先生のしゅんくんが来た!」
と言って息子のところに駆け寄ります。
すると、あいこちゃんも負けずに
「違うもん!あいこのしゅんくんだもん!」
と走り寄り、息子に抱きつきます。
これが、朝の恒例となっていきました。
恥ずかしそうに
照れている息子を見ながら
先生があいこちゃんの心に寄り添おうと
一生懸命になっている様子に
胸がいっぱいでした。
家に帰ると、息子に
園でのあいこちゃんの様子を
よく聞いていました。
「いつも一人でお部屋にいるよ」
「今日は3回も泣いたよ」
「お友だちにおもちゃをとられて泣いてた」
と解説する息子に、
「そうなんだ」
「あのね、あいこちゃんは
とっても大切なものをなくしものしちゃったの。
だから、心がすごくヒリヒリして
ちょっとしたことでも、痛くて痛くて
涙がでてきちゃうんだと思うの。
だから今は、そんなあいこちゃんを
お友だち、みんなで守って
あげて欲しいなと思うんだ」
そう話すと
ヒーローものにハマっていた彼は
「うん!俺、守ってあげる!みんなで守ってあげる!」
とよく話していたことを思い出します。
ある朝のこと。
ちょうど登園するあいこちゃんと
バッタリ会いました。
お父様は、あいこちゃんを先生に引き渡し
「じゃあな、行って来るよ」
と手を振り、背を向けて
門に向けて歩き出した時です。
あのおとなしかったあいこちゃんが
大声で叫び、裸足で駆け出したのです。
「お父さん!!行かないで!!
あいこを置いて行かないで!」
それはそれは大変な勢いで
大声で必死に泣き叫びながら
裸足で駆け出していきます。
先生もびっくりして、裸足で追いかけ
振り払おうとするあいこちゃんを
両手でしっかり抱きしめます。
「あいこちゃん!大丈夫だから!
お父さんは必ず迎えに来るから!」
いつものあいこちゃんの様子からは
想像もつかない展開に
息子と私は、ただ呆然としていました。
・・・お迎えの時に
先生に声をかけました。
「先生、よかったですね。あいこちゃん、泣けましたね。」
すると先生はにっこりと微笑んで
「はい!本当に。よかったです。」
とおっしゃいました。
それ以来、しばらくの間は
毎朝、泣き叫び
先生に抱かれていることが
多かったあいこちゃんでしたが
卒園する頃には、みんなと元気よく
園庭を走る姿を見るようになりました。
私はこの時のことを
保育士の学生さんや研修先で
話すことにしています。
あいこちゃんはきっと
お母さんを失った現実と向き合い
その悲しみを
お父さんを見送る後ろ姿に
重ねたのかもしれません。
「お父さん、行かないで!」
は多分
「お母さん、行かないで!死んじゃいやだ!」
と言いたかったのではないかと。
子どもは、毎日いろんな発見をして
喜びに満ちているように見えますが
実は、同じくらい
たくさんのなくしものをしています。
引っ越しをしたら
慣れ親しんだ家をなくしものするし
ケガをしたら
元気よく楽しく遊べた時間をなくしものするし
夫婦げんかを見ると
仲の良い両親の笑顔をなくしものします。
なくしものをしたら
とても悲しくて、不安になります。
そんな時は、泣かせてあげることも必要です。
でも、失ったものが大きいと
なかなか向き合うことができず
時間がかかることがあります。
それでも、優しく見守られ
大丈夫だと確信が持てると
小さいながらも、頑張って
悲しみに向き合おうとするのです。
素直に感情を吐露できる場を
用意してあげることは
実は、子どもだけでなく
大人にとっても必要なこと。
悲しみに真剣に向き合うということは
とても労力を必要とするので
勇気がいるのです。
子どもの悲しみを受け止める
役割を持つ大人には、いつも
安心して弱みをさらけ出せる場を
持たなければなりません。
人に寄り添ってもらい
悲しみを吐き出せた時
現実と向き合う勇気が湧いて来ます。
支える人もまた
支えてもらう立場を持つ。
そうやって人は支え合うから
「人」なのだということを
堂々と、見本として、子どもに
見せてあげて欲しい。
それも大事な大人の役割なのだと思います。
鶯千恭子(おうち きょうこ)
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