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ストレスから身を守るオキシトシン

人のつながりや愛情に深い関係を持つ神経伝達物質のオキシトシン。
別名「愛情ホルモン」と呼ばれ、ここ数年で多くの人に知れわたるようになりました。

オキシトシンは、元来、出産した女性に大量に分泌され、伸びきった子宮を元に戻そうと働いたり、母乳の分泌を促すことで知られています。近年、それに加えて、信頼関係や人と関わろうとする社交性に深く関係することがわかったのです。

そして、オキシトシンの働きは、それだけではありません。
人がストレスにさらされた時にも、分泌が促進されます。

ストレスから身を守るバリアの役割

バリア

例えば、辛い出来事が起こると、オキシトシンはダメージから守ろうとバリアのような役割を発揮させます。具体的には、ストレスホルモンの分泌を抑え、胃の消化を助けます。そして、人と親密な関係を求め、胸の内を聞いてもらいたいと思うように仕向けていくのです。

ただ、ホルモンの感受性には、個人差があるようです。もともとオキシトシンが多い人は、元来人と関わろうとする気持ちが強く、相手の感情の動きがよくわかるので、人と交流することを心地よいと感じて楽しみます。人懐っこさを感じさせる人気者で、人の輪を大切にする傾向が強いです。

ただ、増えすぎると、全く違った面も出てきます。
嫉妬深くなったり、大切な人が自分から離れていかないか、幸せが逃げてしまうのではないかと不安が強くなったり、また、自分が大切にしているものを傷つけようとする相手に対して、激しい攻撃性を示して、徹底的に排除しようとします。母親が、我が子を守るために、怯むことなく闘おうとする姿を想像すると、そのパワーが如何ほどかが分かりますね。

反対に、オキシトシンが少ない人は、人を求める気持ちはそれほど強くありません。感情が波立つことも少なく、ドライな印象を与えます。ところが、人と関わることに疲れやすくて、ストレスを感じる傾向が強いので、つい引きこもりがち。人間と関わるよりも、パソコンやモノ、数字に触れている方が落ち着く傾向を示すといわれています。

群れて育つとオキシトシンが増える⁈

群れる

これらは、長らく生まれつきの性質だと思われていました。しかし、最近では、育つ環境によって、その傾向を強めたり、弱めたりすることがわかってきました。

例えば、ゲージの中に単独で入れられて育ったラットは、ストレスにさらされると、戦闘態勢をとって身を守ろうとするストレスホルモン(CRF)が増加。消化能力は落ち、胃の中のものがいつまでも残ってしまう、ということがわかったのです。

ところが、小さい頃から共同で飼育されたラットは、ストレスにさらされてもCRFは増えず、胃の消化能力も落ちなかったのです。つまり、「共同で飼育される環境」が、オキシトシンの産生を促進させていたのです。その結果、ストレスホルモンの分泌を抑え、消化能力を正常に維持させたというわけです。

ストレスへの耐性を高め対処能力をアップ

対処力

「共同で飼育される環境」とは、子どもにとってはどんな環境になるのでしょう。きっと、小さないざこざがしょっちゅう起こります。腹を立てたり、悲しくなったり、不安に襲われたりといったストレスを感じることが多々起こるのです。

ところがそのたびに、心やからだを「バリアを張って守ろう!」と、オキシトシンの分泌が促されます。つまり、ダメージを負わないように守られつつ、対処する経験を積んでいくことができるのです。その結果、ストレスへの耐性がつくられ、少々のことでは動じないタフさが育ちます。小さいうちの雑多の人間関係で生じるストレスは、心のバネを作るというわけです。人と関わることがいかに大切かがわかりますね。

群れて生きることで生き延びにかけた人間は、人との関わりから離れてはいけないのです。特に小さいうちは、お節介なほどに人が関わってあげる。そして「人っていいもんだ」という記憶をたくさん作ってあげるのです。

そうすれば、たとえ人づきあいが苦手な傾向を持っていたとしても、人と関わることを怖がらないようになります。それには、意識して、小さい頃から雑多の人の中に放り込む。そして、子どもが困っていたら、冷静に対処の仕方を教える。最後に「大丈夫、次はきっとできる」と添えて。

我が子を愛する親であれば心配でたまらないでしょうが、「大丈夫、大丈夫」といって、子どもの成長を一緒に見守ってくれる「親を支える人」を持つことも欠かせません。これらは、将来の安定したタフな心を作るための大事なプロセスなのです。


鶯千恭子(おうち きょうこ)



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