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親密な関係が苦手な回避型社会

人間関係の築き方は、人それぞれです。
これって遺伝?それとも環境?
いろいろと意見が分かれるところですが、大方”双方が影響しながら発達する”という考え方に落ち着いています。
ところが、環境の変化がこれだけ激しい現代。
人間関係はどんな傾向を生むのでしょう。
とても気になるところです。
そこで今回は、”環境の変化が人間関係に及ぼす影響”を中心に考えてみたいと思います。

親密な関係を避ける「回避型」が急増⁈

よく耳にするのは、現代は親密な人間関係が苦手な人が増えているということ。
特に若い世代の中で、人と深く関わることを鬱陶しいと感じる「回避型愛着スタイル」を持つ人が急増しているというのです。

「回避型」?
「愛着スタイル」?
馴染みのない方も多いと思いますので、少し解説をしてみたいと思います。

「回避型」とは、人間関係のカタチが”人を避ける”スタイルだという意味です。「愛着」とは、身近にいる特定の人に寄せる信頼の絆のこと。
初めて出会う人(多くが母親との関係を指します)とのやり取りの中で、愛着を形作りますが、やり取りによっていろんなカタチが生まれます。

つまり「回避型愛着スタイル」とは、親密な関係を避けることで安心を引き出す人間関係のカタチを持つといえます。
親密な関係の中で安心感を育むのではなく、人を避けることで安心を感じるというのですから、人間のプログラムに反するのでは?と不思議な気持ちが湧いてきます。
しかも、この傾向は日本だけでなく、世界的に(主に先進国で)増えており、遺伝的な要素が2〜3割、残りは環境要因だといわれているのです。

【回避型愛着スタイル】
ヨーロッパの大学生 35%
北米の大学生    20%
日本の大学生    50%
(岡田尊司著「ネオサピエンス」文芸春秋より)

回避型愛着スタイルの特徴

人格のことをパーソナリティと呼びますが、回避型愛着スタイルもパーソナリティの一つです。

さあ、では回避型愛着スタイルにはどんな特徴があるのか、詳しくみていきますね。

<回避性パーソナリティーの特徴>
◉人と情緒的な交流・親密な関係を避ける
◉人間関係で歓びを感じることが少なく人に関心が薄い
◉人よりモノに関心が高い
◉合理的・機能的
◉人と親密で持続的な関係を築くことに生きづらさが集中している
◉親との結びつきが希薄
◉温もりある愛情や手厚い世話を期待しない
◉世話にならないし自分のことだけを考える
◉共感されたことが少ないし共感しない
◉自分でなんとかしようとする
◉人は人、自分は自分
◉大人になって子育てをしようとすると合理的でクールな育児になる
◉面倒は省き自分の人生を優先する
◉恋愛やSEXへの意欲の乏しさ
◉人付き合いより仕事
◉育児よりゲームが好き など
(岡田尊司著「ネオサピエンス」文芸春秋より)

なるほど。
こうやって眺めてみると、一見、発達障害と見間違いそうになりますよね。
発達障害の他にも、似ているけれど区別が必要なものとして「回避型パーソナリティー障害」があります。
これらの違いについても整理してみましょう。

あくまでも育つ環境で形作られる「回避型」

それぞれの特徴を簡単に書き出してみるとこんな感じです。

発達障害:有病率1〜5%
生まれつき神経的レベルの特徴を持つ(同一行動パターンに固執、相手の気持ちを読むことが苦手、情報処理の障害など)

回避性パーソナリティー障害:有病率1〜5.2%
本当は人と親密な関係を求めている。
求めているけど親密になることが怖くて強い緊張を感じてしまう。
求めているのに近づけないジレンマに苦しむ。

回避型愛着スタイル:日本30〜50%急増中(ヨーロッパ35%↑、北米20%↑)
人への関心が乏しく、モノに興味持つ、親密な関係が不快、共感が苦手、超合理的な考え方をベースに持つなどの特徴を持つ。

どれも遺伝的要素が土台となっているもので、おかれる環境によって、偏りに強弱が生まれますが、中でも3つ目の「回避型愛着スタイル」は、偏り方が上の二つに比べて少ないため、一見社会に適応しているようにみえますが、関係性が近づくとその特徴があらわになる、山に例えると、裾野の広い範囲に位置するのが回避型愛着スタイルということになります。
このタイプが増えているということは、要は、現代社会が、回避型の方が生きやすい環境になってきているということなのです。

回避型を育てる環境とは?

では、回避型の方が生きやすい環境とはどのような特徴があるのでしょう。
子どもが体験する初めての人間関係の中で育まれる「愛着」から紐解いていきますね。

「愛着」は、そもそも動物が生き残っていくための”戦略”として本能的に備わってきたものです。

例えば、カモの赤ちゃんが生まれて初めてみた”動くもの”に強い愛着を抱き、後をついて回る”インプリンティング”でわかるように、弱々しくて、大人になるまで、長い間保護してもらう必要がある動物は、愛着なしでは身を守れません。
そう考えると、やはり人間も人を求めるように仕組まれているはずじゃないかと思いますよね。ところか、保護してもらうために”くっつく”ように仕組まれているはずの愛着が、なぜ”避ける”ようになるのでしょう。
とても不可解です。

おそらく、距離を近づけてくっつくことは不快で、離れている方が安心できると判断したのでしょう。
つまり、接近して、近づくことで「安心できた」という経験が乏しいのです。
もっといえば、接近しようとするプログラムが内蔵されているのにもかかわらず、安心が手に入らないので、他に安心が手に入る方法はないか探した結果、人ではなく、モノに興味を持つように行き着いた、という方が正しいかもしれません。

ですから、発達障害に似ているけど、神経レベルでの特徴はそれほど強くないし、回避性パーソナリティー障害にも似ているけど、親密を求めているのに怖くて近づけない苦しみが、生きること自体を苦しめている、ということとも根本から違うというわけです。

回避型の急増は回避型社会に向かう前兆?

世界中で”親密な関係を避ける人が増えている”ということは、どんな社会に向かっているのでしょう。

そのことに警告を発しているのが、パーソナリティ障害治療の第一人者でもある精神科医の岡田尊司さんです。

岡田先生曰く、回避型社会は、人よりモノに強い興味を持つので、モデルチェンジやコンテンツのアップデート、新奇的なアイデアや仕掛けに夢中になったり、それを生み出すクリエーターを神のように崇めて、生きる喜びを堪能する…つまり、超合理的で、システマチックな関係を良しとするのです。

人とのつながりの特徴は、超クールで超淡白。
人間関係も情報の一つ(データ化)として捉えて、感情を人と揺らし合うことは少ない。
子育てや夫婦関係もとてもクール。
家庭の中は徹底した合理主義で、無駄を省こうとする。
家庭の中でも、個人主義的な感覚が徹底されるので、甘さを許さず、子どもには早くから自立を求め、自分は自分、他人は他人という、機能主義を重視するんだそうです。
うーん。なるほど。。。
なんとなく現代は、回避型社会に向かう前兆のようにも見えます。

回避型+共感型の共存社会を目指す

だとすると、そんな社会が実現すれば、反対に「共感型」の人間は苦しくなるでしょうね。
人と感情を響き合わせることが至福だと感じるセンサーを持っているのに、響き合わせることに価値がなくなるのですから、孤独感に苛まれて、生きる希望を失い、死にたくなる人も続出するかもしれません。

確かに人間が作る世界は、半数が「そうだ!」と合意すれば、それが常識に切り替わる世界です。だからといって、共感型が息絶えるとは思えないのは、私の頭が古いのでしょうか・・・。

人と接することが煩わしいと感じる人が増えるなら、振り子の揺り戻しが起きて、人恋しいと感じる人が増える時代が来るに違いない、と信じているのです。
いや、そうあって欲しいと切望しているのが正しいかもしれません。

たとえ、このまま回避型の人が増え続けたとしても、感情豊かな共感型と手をつなぎ、お互いの得意分野を生かした”新しい社会のカタチ”を模索していきたいです。
なぜなら、人間は他の動物にはない高い知性を持つようになっただけでなく、人を理解し深く繋がるための道具として豊かな感情を備えたのですから。
これからの時代は、この二つの発達と融合が、目指す社会なのです。

鶯千恭子(おうち きょうこ)

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