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しあわせが溶け込んだお酒を沖縄で飲んだ話

いままでいろんなお店を飲み歩いたし、家で飲むのも好きだし、お花見やBBQでの乾杯にも楽しい思い出がある。ありがたいことに飲むしあわせは20歳以降いまだにずっと続いていて、20年くらいたった。思い返せばけっこう長い時間をお酒とともに過ごしてきたが、お酒にはたまに「しあわせ」が溶け込んでいることがあると思う。しあわせが溶け込んだお酒は特別である。でも、いつ出会えるかわからない。

私が最初の会社で働いていた頃、同じ会社で私のことをかわいがってくれていた少し年上の女性の先輩が、近々沖縄で結婚式を挙げるということを聞いて、招待されてもないのに「行ってもいい!?」と前のめりで聞いたら、挙式はホテルのオープンスペースで行うから参列できるというので、仕事の休みをとって、共通の友人と訪ねた。訪ねたっていうか「おしかけ」だった、今考えてみると。

沖縄の名護市にある「ブセナテラス」という海に面した素晴らしいロケーションのリゾートホテルに到着した私は、ホテルのエントランスを抜けた海が一望できるテラスに、挙式の準備がすすめられている場所をみつけた。青い空と海にむかって並ぶ椅子。赤い絨毯に祭壇。美しく飾られた花のゲート。この数時間後にここで友人が結婚式を挙げる。広く青く美しい沖縄の海を前にして愛を誓う、なんてすてきなんだろうと感じた。

私と同行した友人は参列者のすみっこに混じらせてもらって、挙式に参列した。やさしい初夏の風と明るい沖縄の太陽の光のなかの新郎新婦は幸せに満ちて、波音と祝福の歓声が私たちの心も喜びでいっぱいにした。知人友人の挙式に何度か参列したが、思い出深い美しい挙式だった。

その日の夜、私たちも奮発してブセナテラスに宿泊した。何を隠そう、当時ペーパードライバーだった私と同行した友人。ブセナテラスは街から離れているので、移動手段がなかったのだ。(ブセナテラスへは路線バスを使ってたどり着いた。)夕飯はたしかかろうじて歩いて行ける距離の居酒屋に行き、新郎新婦にごちそうになった気がする。そしてホテルへ帰ってきて、私は同行した友人とホテル内にある「抱瓶(だちびん)」というバーへ行ってみることにした。

ホテルの施設案内の中で、古酒(クースー)バーという抱瓶の紹介を読んで、沖縄に来たからには古酒を飲んでみたいと思いつき、酒好きな友人もふたつ返事で、我々は抱瓶に足を運んだ。

クースーバー抱瓶に入ると、風がふわりと吹き抜けた。バーのなかは暗くてよく見えなかったが、海に面した方向の壁がなくて、風が通り抜けている。もしかしたら屋根と柱しかなかったのかもしれない。暗さのなか、ろうそくの炎だけが風にゆらめきながら小さく灯り、BGMは波音。ああもうなんて大人な空間なんだろう。まだ20代の小娘だった私は、その雰囲気に酔ってしまいそうだった。

背の高い椅子に友人と並んで座って話す。朝早く沖縄に着いたこと、友人と乗った路線バスでのブセナテラス行きが珍道中で楽しかったこと、すてきな挙式に参列して嬉しかったこと、新郎新婦と両家のご家族が幸せそうだったこと、いまこの目の前のグラスに入っている古酒が、今日一日、自分がいかに幸せをたくさん感じたかを教えてくれる。沖縄の初夏の夜の風がやさしく肌をなでる。友人のごきげんな顔が隣にある。私も同じ顔してるに違いない。

もうあれから15年くらいたつのに、古酒の味は忘れてしまったのに、抱瓶で感じた幸せは思い出せる。私が抱瓶で味わったのは、古酒のかたちをした「幸せ」だった。抱瓶でのあの一杯にはしあわせが溶け込んでいたに違いない。


*これは、キリン×note 「#ここで飲むしあわせ」投稿コンテスト 記事です。




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