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医療従事者等への偏見・差別拡大について 〜むしろ医療従事者を味方につけましょう〜

少し前に、以下のような報道を耳にしました。

「小学生の子どもたちを連れて公園に出たんですが、お話しているお母さんたちが寄ってきて。どこどこの病院にお勤めの方ですよね、っていうふうに話しかけられて、こういう時期なので公園は自粛していただきたい、というふうにおっしゃられて。」
こう話すのは、都内の女性看護師。2週間前、人の少ない夕方に子ども2人と出かけた公園で心ない言葉をかけられたといいます。

この話が実話かどうかは私には分かりません。
しかし、「新型コロナ新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の尾身茂副座長が、4月22日の記者会見で、医療従事者やその家族への偏見・差別拡大に関して、わざわざ以下のように述べて強く警鐘を鳴らしたことからすれば、悲しいかな、このような事態が増えてきているのは現実のことなのでしょう。

尾身茂副座長:
「医療機関を含む様々な場所で偏見と差別が起きてしまっている。特に医療機関では院内感染が起こり、医療従事者への偏見や差別が拡大している。こうした影響は医療従事者の家族に対しても向かっている。感染の不安が重なって、医療従事者の離職や休診、診療の差し控えなどにつながっている。」


そもそも、私にしてみれば大変素朴な疑問なのですが、医療従事者の方々に対して平気でこのような心ない言葉や悪口を投げつける人たちは、「自分が(新型コロナウイルス感染症に限らず)病気になって、彼ら・彼女ら医療従事者のお世話になるかもしれない」という可能性をまったく考えないのでしょうか?

特に冒頭のケースのように、自宅近所の公園で顔を合わせるということは、いざ自分が病院に運ばれる事態になったときに、その医療従事者の方が目の前にいる蓋然性が相当高いわけです。

もちろん、医師・看護師・薬剤師をはじめとする医療従事者の皆さんは、われわれ一般人が想像する以上に、日頃からプロとしての高い使命感・倫理観をもって臨床治療に当たっておられます(少なくとも、私がこれまでに受診した病院においては、皆さんそういう印象でした)ので、「自分に悪口を言った患者には仕返しをしてやろう」などと敵意を顕わにしたり、まして、わざとおざなりな治療をしたりすることはおよそあり得ないでしょう。

しかし、医療従事者の皆さんだって同じ感情を持った人間です。
現実には、体調の悪い日もあれば、機嫌の悪いときもあるでしょう。
態度の悪い患者に内心イラッとすることだって、まったくない方がおかしいと思います。

大げさな言い方になってしまいますが、場合によっては、自分の生殺与奪の権を握ることになるかもしれない医療従事者の方々に対して、面と向かって悪口を言ったり差別をしたりして攻撃する、などということは、私のように身体が弱く医療のお世話になりまくっている人間には、恐ろしくてとてもできません

むしろ、医療従事者の方と病院外で知り合えたなら、「ラッキー」と思って普段から良好な関係を築いておき、いざという時には親身に相談に乗ってもらえるようにしておく方が、はるかに建設的ですし、自分にとっても心強いことでしょう。
(ただし、医療従事者の善意につけ込んで、病院外で無償で診てもらおうとか不届きなことを企むのは論外です。専門知識を持ったプロの医療従事者にしかるべき報酬を支払うべきなのは当たり前のことです。)

専門家会議の尾身副座長は、記者会見で、以下のようにも述べておられます。

尾身副座長は、「誰もが感染しうる感染症だという事実」「誰もが気づかないうちに感染させてしまう可能性があるという事実」「病気に対して生じた偏見や差別が、さらに病気の人を生み出し感染を拡大させる負のスパイラル」の3つをあげ、「偏見や差別は絶対にあってはらない。感染症への感染リスクと隣り合わせで働いているすべての人々に対する敬意をみんなで示して」と訴えた。

前例のないウイルスに対して、特に小さな子どもを持つ親御さんが、普段以上に不安になる気持ちも分かります。

しかし、医療従事者の方々は、自分がこれから我が命を守るためにお世話になる可能性のある人たちであり、いわば味方につけておくべき人たちなのです。
一時の不安な感情にまかせて悪口を言ったり差別をしたりしても、後々何ひとつ良いことはありません。

私が知る医師や看護師の方々は、「報酬や繁忙度といった処遇や職場環境も重要だが、やはり患者さんらから感謝の言葉をかけてもらうのが一番グッとくる」と口々におっしゃいます。

自分自身も感染するかもしれない恐怖と闘いながら臨床現場で奮闘されている医療従事者の方々には、敬意と感謝の気持ちを持って接し、味方につけることを考えましょう


※なお、法務省では、新型コロナウイルス感染症に関連する不当な差別、偏見、いじめ等の被害に遭った方からの人権相談を受け付けています。
「人権相談窓口」が設けられていますので、酷い差別等に遭われた方は、ここへ相談して「声を上げる」こともご検討されれば、と思います。
http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken02_00022.html

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漫画家・羽海野チカ先生による描き下ろしイラスト
白泉社のウェブサイトからダウンロードできます)


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