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モンステラ

「「明けましておめでとう。」」
 真夜中、公園のベンチに座る。毎年必ず此処で新年の挨拶をするのが二人の決まりになって、もう7年になる。
 大学4年の僕たちは、来年も此処でこうしているだろうか。僕と彼女は幼馴染で、幼稚園からずっと一緒にいる。中学生になった頃、どんどん可愛くなっていく彼女を一人の女の子として見るようになった。恋人じゃなくても隣にいることができる現状に亀裂が入ることが怖くて何も言えないままの僕は、とてもずるい人間だなと思う。

「もう今年から社会人だね。早く大人になりたかったはずなのに、まだ学生でいたいと思っちゃうね。」
「きっと、仕事を始めたら戻りたいと思うだろうな。」
「ずっと一緒だったのに、ついにバラバラになっちゃうね。寂しい?笑」
「大学まで一緒だとは思ってなかったもんな。んー、どうだろうな。」
 寂しいなんて言える勇気はなくて、言葉を濁す。ずっとこれでいいと思っていたのに、これからは理由がないと会えなくなることが怖かった。

「あたしは、寂しいよ。離れることも、寂しいって思ってもらえないことも。」
「ごめん、そんなつもりで言ったわけじゃないよ。」
「じゃあ、なに?」
 もう10年も片思いを拗らせてしまっている僕は、どう答えることが正解なのか悩んでしまう。寂しいと言ってしまったらきっと想いが止まらなくなってしまうから。それに、もし今想いを伝えて残り3ヶ月の大学生活で気まずくなってしまうのも嫌だった。

 何も答えない僕に彼女は、
「ずっと一緒に居たんだよ? 顔を合わせない日を数えられるくらい。今日だって今までも毎年此処でってあたしは決めてたのに、、。」
「うん。僕も此処でって決めてたよ。」
 いつも笑顔で僕の隣に居てくれた彼女が、初めて切なそうな顔をした。傷つけてしまったんだとすぐに分かったけれど、何を謝ればいいのか分からなくて焦る。
「ばか。なんにも分からないの? あたしのことちゃんと見て!」
そう言われて、彼女の顔を見る。ずっと可愛いと思っていた女の子は、少し大人になってきれいな女性になっていた。そして泣きそうな顔で僕を見ている。

 ほんの1、2分だったと思う。体感的には5分くらい見つめ合っていた気がする。そして泣きそうな理由に多分気づくことができたと思う。間違っていたら笑いものにでもなるだろうか。それでも今動かなければいけないと思った。
「うまく伝えられるか分からないけど、聞いて。」
「うん。」
「僕にとっていつも一緒にいるのが当たり前だった。中学に上がって君を女の子として見るようになって。他の男子が告白して振られたとか話を聞いて、関係が壊れるのが嫌で行動しなかった。幼馴染の特権なんて都合がいい言葉でずっ言い訳してきた。でも、もうそんな言い訳できなくなる。バラバラになるのは寂しいし本当は嫌だ。」
「うん。」
「僕は、ずっと君が好きだった。」
「うん。知ってる。」
「知ってたの?」
「知ってたよ。それにずっと待ってたんだけど。」
 今まで安全な場所から行動せずにいたことをとても後悔した。

「待たせてごめん。僕と付き合ってください。」 
「はい。」
そう言った彼女はとても可愛い笑顔を僕にくれる。
「7年も待ったよ、あたし。」
「待っててくれてありがとう。来年も一緒に年越そうね。」
 僕がそう言うと、
「もう次からは家でいいね。ここ寒いし。」
と言う彼女に、僕はきっとずっと敵わないだろう。でも、それでいいと思った。

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