推しの親友② 2024.07.15
前回の記事で初めて私のnoteを読んだという方がいるかもしれないので、ここで登場人物について補足説明をしようと思う。
私の推し・・・新大久保アイドルを経て韓国デビューを果たしたものの、コロナ禍にグループが解散。現在は俳優を目指し勉強中。(要するに一般人)
W・・・推しが所属していたグループのメンバー。解散後、新しいグループのメンバーとして新大久保に戻ってきた。
推しの親友K・・・元アイドルで推しの親友。Wとともにアイドルグループを結成し、来日。
では話の続きを。
久しぶりの新大久保は、インバウンドの影響で多くの観光客で賑わっていた。
この日、SHOWBOX(現在のRe:Liveホール)に通っていた頃いつも一緒に来ていたヲタ友は都合が合わず、私は1人でKステへ向かった。
Wたちがフライヤーを配り歩くPRの予定時間ギリギリに新大久保へ到着し、スタート地点であるKステの裏口付近を目指した。
到着すると、既に何人かのヲタク達が出待ちをしていた。
事前に連絡をしておいた友人が、私に気づいて手招きをする。もう直ぐ出てくると思うと教えてくれた。
何となく、常連でもないのに裏口で出待ちをするのが気まずくて、裏口から50mほど離れた道路沿いで1人で待つことにした。
カメラを準備して、試し撮りをしつつメンバーが出てくるのを待っていると、出入り口付近のヲタクたちがシャッターを切り始めた。
Wたちが出てきたようだ。
私は少し考えて、最初は一眼ではなくスマホで動画を撮ることにした。
メンバーたちは、常連ヲタクたちに挨拶をしながら歩き始めた。
最初にグループのリーダーが歩いてきて、フライヤーを渡してくれた。
2番手は、推しの親友Kだった。思っていた通り、彼はこういうPR活動が苦手そうだった。気まずそうに微笑んで、うつむきながら通り過ぎて行った。
Wは、常連ヲタクと出入り口付近でわちゃわちゃと話をしていて、だいぶ遅れて出発した。
歩き始めてすぐ、50mほど離れた場所に立っている私を見て立ち止まった。
友人がWに何かを伝えて、Wがそれに答える。
友人は「えー?!わかるの?!」と大声で驚いていた。
Wが笑顔で近づいてきた。
『ハルちゃん』
私は驚いて、すぐに言葉が出てこなかった。
「あの、、、私のことわかる?」と、拗らせヲタクみたいな言葉が出た。
『もちろん』とWが答えた。
『ハルちゃん、今日の公演くる?』
とWが訊いたから、私は「うん!行くよ」と答えた。
『よし!』
と、Wはガッツポーズをした。
そして、スタッフに急かされるように私の前を通り過ぎて行った。
何度も何度も振り返って、スマホに向かって可愛らしくポーズをとりながら、Wはとてもはしゃいでいた。
私は呆然として立ち尽くし、慌てて動画のストップボタンを押して、彼らの後を追った。
メンバーたちの写真を撮ったり、メンバーと話すために隣に張り付いて歩くヲタクを引き連れて、人混みの中を歩いて行く新大久保アイドルの姿はひときわ目立つ。
私は昔からその中に加わるのが苦手で、いつも離れた場所から撮影することが多かった。
混雑したイケメン通りを見て、私は彼らを追うのをやめた。この人混みの中を、歩行者に迷惑にならずに撮影するのは難しそうだ。
駅前通りから折り返して帰ってくる彼らを待つことにした。
どのくらい待っただろうか。
20分から30分くらい待っていると、カメラを持って彼らの先回りをしているヲタク達の姿と、人混みの中からチラチラとメンバーの姿が見えてきた。
私は邪魔にならないように道の端に寄って、一眼レフを構えた。
推しの親友Kは、目線を外しながらニコリと微笑んで会釈をして通り過ぎて行った。だいぶ人見知りな性格のようだ。
Wは、リーダーと並んで歩いて来た。私がカメラを構えていることに気づくと、カメラ目線でポーズをとりながら通り過ぎて行った。
そう、この感じ。とても懐かしい。同じ場所で、推しを撮り続けた日々が甦る。
取り巻きのヲタクたちの数がいつの間にか増えていて、その中に何人か、知っている顔があった。
フライヤー配りを終えたメンバーたちが公演会場の建物に戻っていくと、ヲタクたちは公演の開始時刻まで時間を潰すため、近くのカフェへと散って行った。
私は、1人でタリーズへ向かい、コーヒーを飲みながら時間を潰すことにした。
Wが私の名前を覚えていたことが嬉しくて、一緒に来れなかったヲタ友にLINEで報告をした。
もしかしてあの時、出入り口付近にいた友人がWに教えたのかもしれないと思ったが、友人がWに「あの人の名前を覚えてる?」と訊いたら、すぐに名前を答えたと言っていた。
彼女も驚いていた。
公演の開始時刻が近づき会場へと向かうと、ロビーでは他のグループの特典会を待つファンで溢れていた。
最近新大久保で人気のグループだった。
ロビーの端っこに立っていると突然、「ハルちゃん?」と声をかけられた。
驚いて顔を上げると、美人ちゃんだった。
(注: 私がSHOWBOXに通っていた頃、仲良くしていた女の子)
美人ちゃんは、新大久保で人気のグループに夢中のようだった。他にも私の知っている子たちが通っているらしい。
そうしているうちにWたちの公演の入場が始まった。
私は当日券の最後の方だったから、ゆっくりと順番を待つ。
後ろの方で見ようと思っていたのだが、先に入っていた友人が隣が空いてるよと手招きした。
初めて来て最前列で見るのは気が引けたから、後ろで良いと断ったが、強引に説得されて最前列に座ることになった。
すると、すぐ近くに見覚えのある人物が座っていた。
推しの同担だった人。
私がずっと「推しのオキニ」だと勘違いしていた、推しに拗らせていた女の子。彼女は『新大久保アイドル厨』とでもいうのか、SHOWBOXやKステのアイドルを専門に追っているヲタクだった。
落ち着いて周りを見回すと、他にも推しの同担だった人がチラホラいることに気づいた。
狭い世界だな、と改めて思う。
新大久保の街中でも見知った顔を何人も見た。
そんな一定数の常連によって支えられている世界だ。
Wたちは来日して1ヶ月ほど過ぎていたから、既に常連のファンがついていた。
メンバー全員が元は別のアイドルグループに所属していたから、その時からのファンが多いようだ。
1列目、2列目はそういった常連のファンが固まっていて、そこからパラパラとまばらに当日無料チケットで見にきた人や、ライト層のファンが座っていた。
お決まりの合いの手やコールをする常連さんたちの中で居心地の悪さを感じたものの、ライブはとても楽しかった。
決して多いとは言えない観客数だったけど、一生懸命に盛り上げようと頑張るメンバーたちは輝いていた。
新しいグループで頑張るWに一度だけ会いに行こう、そのつもりだった。
だけど、ライブが終わる頃には「また来よう」と決めていた。
彼らが、私の心の隙間を埋めてくれるだろうか。
そんな、微かな期待を抱いていた。
つづく
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