夏風邪と、推しと、2番目の推し。2022/08/02
〜2021年に解散した韓国アイドルグループの推しとの思い出を綴るnote〜
2019年。
推しのファンになって2年目の夏の終わりに始まったSHOWBOX公演。
彼らが韓国へ帰国している間にファンの顔ぶれは変わっていたが、公演はまずまずの集客だった。SHOWBOXの中ではトップクラスと言っていいと思う。
夏風邪をひいてしまい、私は朝から喉の調子が良くなかった。いつも一緒のヲタ友と、地方から上京した友人と、3人で公演を見に行った。
公演開始前、同担の若い女の子から少し馬鹿にされたような出来事があって、楽しい気分に水を差された気持ちになったが公演はとても楽しかった。
大きな声で歓声をあげたから、元々調子の悪かった喉が完全に潰れてしまった。
特典会でこんなガラガラ声で話すのは申し訳ないから、早めに切り上げようと思いながらSHOWBOX2階の特典会会場へ向かった。
特典会ではいつも同じ顔ぶれが最前列の席を陣取っていた。席を取るための争いは日常茶飯事だ。
私は友人たちと空いている後ろの方の席に座ることにした。
個人チェキのサイン会。
私はいつも通り本命の推しと2番目の推し、2人のチェキを撮った。
サインはまず最初に本命の推しの列に並んだ。
順番が来て推しの前へ座り、いつもと同じように「お願いします」と言いながら推しにチェキを渡した。
すると推しはビックリした顔をして
私の潰れてしまった声を聞いて、とても驚いていた。
「ごめんね、こんな声で。エアコンをつけて寝たら、こんな声になっちゃって…」そう言いながら私は一歩後ろに下がった。
風邪をうつしてしまったら大変だ。推しだってきっとこんな声で話されるのは嫌だろうから。
いつも推しは話しながら手を握ってくれるから、そうしなくても良いように手を引っ込めておいた。
サインを書き終わると推しは、
いたずらっ子みたいにふふっと笑いながら、そう言った。
そう言われてみると少し鼻声のような気がする。
そう言って小指を出した。
指切りで約束しようという意味のようだった。
少し躊躇いつつ、私も小指を出す。
すると推しは小指を絡めて「約束」と言いながら、親指と親指を合わせる韓国式の指切りをした。
(親指同士を合わせるのは、母印を押すという意味の仕草)
母印を押す仕草で、親指を優しく撫でるように合わせる推し。
推しはわざと手を離さずに、こちらの反応を面白そうに見ている。私はどうしていいか分からずに焦って離そうとするが、なかなか離さないのだ。
やっと手を離したと思ったら、左手で手首を掴み、そのまま右手の指を開かせて5本の指を絡めてギュっと握った。
私はたぶん耳まで真っ赤になっていたと思う。
次に2番目の推しのサインに並んだ。
2推しも私の潰れた声に驚いていた。
ごめんね、と言うと2推しは「大丈夫!今日はハルが話さなくても良いように僕が話すから、無理しないで。」そう言って今日歌った曲の話をしてくれた。
個人サインが終わり、次は団体サインだ。
先頭のメンバーにチェキを渡して、声が出ないことを伝えた。
「男の人みたいな声でしょ?」と言うと、そのメンバーは無邪気に「うん!男みたい!」と笑った。
2番手に本命の推しが座っていた。
推しにチェキを渡して同じように、「私、男の人みたいな声だよね」と言うと、推しは
と強く否定した。軽いノリで言ったつもりだけど、推しは真剣だった。
慰めのつもりだろうか、そう言ってくれた。
照れ臭そうに言葉を選びながら、そうやってフォローしてくれた。
その言葉にお礼を言おうとすると推しは「しーっ」と言いながら口元に指を当てて、話すのを制止した。
話さなくてもいい、わかってるという意味なのかなと感じた。その優しさにときめいた。
団体サインの3番手は、2推しだった。
チェキにサインを書き終わると、「薬をちゃんと飲んで、早く治してね」と言いながら小指を出した。
え…指切り?
2推しが指切りをしようなんて、初めてのことだった。隣に座っている本命の推しの視線が気になったが、私は恐る恐る小指を出した。
韓国式の指切り。
小指を絡めて、親指と親指を擦り合わせる。
2推しは今まで、私にそんなことをしたことが無かった。だから余計に恥ずかしかった。
SHOWBOXの帰り道、ヲタ友に推しと2推しの指切りの話をした。するとヲタ友も「2推しが??指切り??そんなことするの?!」と驚いていた。
私が驚いたように、ヲタ友もまた驚いていた。
「やっぱり…2推しと本命は競い合ってるみたいだね。トップヲタクだったあの人が来なくなったし、ハルちゃんに自分のファンになってほしいのかも」
そして「ねえハルちゃん、2推しのファンになってみたら?」と冗談めかして言った。
今まで2推しのファンから本命の推しに『推し変』した人を何人も見てきた。
ヲタ友も私も、そのことに胸を痛めてきた。
たまには逆のパターンがあっても良いんじゃないかと、ヲタ友は冗談か本気かわからないような提案をした。
だけど私には、そんなことは出来そうにない。
やっぱり本命のことが1番好きだったし、それは2推しもよくわかっているはずだ。
この微妙なバランスを崩したくなかった。
本命の推しに執着せず、2推しとの間でフワフワと立ち回ることが、私の心の平穏を保っているのだ。
早くこの夏風邪を治して、次の公演を楽しもう。
2推しのことを深く考えるのはやめて、ただ楽しむことに集中しよう。
周りが変わっていっても、私は変わらずこのままでいよう。そう小さく胸に誓った。
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