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ぼくのお姉さん

僕の憧れのお姉さんはいつも得体の知れない力に苦しめられていた。僕の目の前で突然蟻地獄の砂の中に引き釣りこまれそうになったり、見えない何かと会話したり、助けてあげたかった。
「大丈夫、あなたは一人じゃないわ」
いつも、僕がお姉さんに助けられるんだ。

お姉さんはいつも何と会話しているのだろう?
「そう、そんな事になったのね。私も戦うわ」
お姉さんは、いったい何と戦っているの?

僕はお姉さんと手を繋ぎながら、何かから逃げるように移動をしていた。
何から逃げているのか、僕には分からない。
とにかく、何かと戦っているようだ。
まるでこの世界には、僕とお姉さんしか居ないかのようだった。
お姉さん:「ねえ、アルベルト博士のお化け屋敷知ってるでしょ?」
ぼく:「うん。知ってるよ」
お姉さん:「そこまで逃げれるね?」
ぼく:「うん。行ける。お姉さんは?」
お姉さん:「大丈夫。直ぐに会えるから・・・きゃ」
お姉さんは、僕の目の前で地面に引き釣りこまれて行く。
僕は、突然のことに驚き体を強張らせて動くことが出来なかった。
地面から手だけが出ていた状態で、お姉さんは止まった。
そして、自力で地面から這い上がってきた。

ぼく:「お、お姉さん・・・だ、大丈夫?」
お姉さん:「大丈夫よ。アルベルト博士のお化け屋敷まで逃げてね。そうね。大丈夫よね」
お姉さんは、別の誰かと話をしているようだった。

僕とお姉さんはアルベルト博士のお化け屋敷に向かった。
僕がお姉さんを守るんだ。
アルベルト博士のお化け屋敷まで、お姉さんの手をしっかり握って行くんだ。

何処からか空襲警報が鳴り響く、遠くの空は真っ赤に染まり、戦争状態にあることが子供ながらに分かっていた。

僕達は何と戦っているの?

辺りが暗くなると、得体の知れないバケモノが地面から這い上がってきた。
僕達は昼夜問わず、走り続けた。
得体の知れないバケモノからお姉さんを守るんだ。

どこかで拾った鉄柱を振り回し、バケモノを攻撃する。
ぼく:「たあ!とお!お姉さん!!こっち!」

いつの間にか僕は、お姉さんの手を離していた。
お姉さん:「逃げて!私のことは大丈夫だから!逃げて!」

僕はバケモノと戦いながら、逃げた。
泣きながら逃げて、お姉さんを見捨ててしまった。
アルベルト博士のお化け屋敷に着けば、仲間に会える。

お姉さんを助けて貰える。
きっと、そうに違いない!
お姉さんを助けるんだ!

アルベルト博士のお化け屋敷は、アルベルト博士が昔に住んでいた屋敷だ。

100年以上も昔の話で、アルベルト博士は行方不明のまま消息を絶っていた。

アルベルト博士が行方不明となってから、十数年が経過した後に、屋敷の窓辺にアルベルト博士がいる事に気がついた。

人々は見かける度に何度か、呼びかけてみたのだけれど、アルベルト博士は気が付く様子もなく、姿を消した。

そんな現象が、何十年も続いた。

誰もが見かけるアルベルト博士は、歳を取らず薄っすらと姿がちらつくことがあった。

アルベルト博士は何かの実験に失敗し、既に亡くなっているのではないかと噂が立ち始めた。

やがて、気味悪がった人々は、アルベルト博士のお化け屋敷と称して、その屋敷には誰も近づかなくなっていたのだ。

今はその屋敷が、得体の知れないバケモノから身を守る屋敷となっていた。

なぜかは分からない。

アルベルト博士が死を賭して実験した何かの副作用によるものなのか、得体の知れないバケモノは屋敷に入ることも、屋敷を見ることも出来ないらしいのだ。

僕は走った。その安全地帯を目指して必死に走った。

夜になると現れるバケモノから逃げるように、暗く影の伸びる場所を避け、曇の日や雨の日、太陽の光が差し込まない日は、得体の知れないバケモノと戦いながら、必死に走った。

もう、体力の限界だよ。

青年:「おい!あそこに子供がいるぞ。止まれ!坊主!大丈夫か!」
僕は、青年に拾われた。
車に乗せられ、なんとかアルベルト博士のお化け屋敷に辿り着いたのだ。

どのようにして辿り着いたのか覚えていない。

車の中で少ない食料を分けてもらう。食べ物なんて久しぶりだ。

小さくちぎりながら食べるパンと少量のミルクを口に運び、無我夢中で食べた。

体が満足したところで、いつの間にか眠りに落ちていた。

目が覚めると、そこには大勢の避難民が屋敷のロビーに居座っていた。

歩く場所が無いほどに人で埋め尽くされ、人の汗の臭いが混ざったなんとも言えない異臭が、その場所を支配していた。

お姉さんを助けに行かなきゃ!

僕はバケモノと一緒に戦ってくれる人を探した。

周りの人に聞いても、誰も手伝ってくれない。

みんなは声を揃えて「そんな恐ろしいこと辞めなさい」と僕をいさめる。

僕はバケモノなんか怖くない。お姉さんを助けるんだ。

そう言っても、誰も立ち上がってくれない。

「ここには居ないよ。戦いたいという人は、他をあたりな・・・」

その言葉を最後に、全ての人が口を閉ざした。

そうだ、車で運んでくれた青年は何処にいるだろう?

彼なら、僕を助けてくれた彼ならば!

アルベルト博士の屋敷はとても大きい。

ロビーから弧を描く大階段を二階へと進んだ。

奥の扉に明かりが灯っている。大人たちの話し合う声が聞こえる。

コンコン。

ぼく:「すみません。入ってもいいですか?」

ガチャ。扉が半開きになり、青年が顔を覗かせた。

青年:「ああ、目が覚めたのか。坊や、今は大事な作戦会議中なんだ。後にしてくれないか?」

ぼく:「僕も入れてください!」

青年は扉の隙間から腕を伸ばし、僕の頭を撫でた。

青年:「気持ちだけ頂いとくよ。後は、俺らに任せて、君は下のロビーで食料配給の時間まで待っていなさい。大丈夫。時期に解決する。大丈夫」

青年は、僕の顔を見ることもなく、自問するかのように大丈夫と言って、僕を閉め出した。

僕は行く場所を無くした。

お姉さんを助けに行かなきゃ・・・・

ここでじっとしてちゃダメだ。

僕はロビーに引き返した。人混みに押されながら壁にぶつかり出口を探す。

扉を開けようとすると、そこにいる大人たちがすごい形相の顔で僕を扉から引き剥がす。

大人:「何を考えているんだ!バケモノが入ってきたらどうする!」

僕は屋敷から出ることも出来なくなっていた。

お姉さん・・・・

どうしたらいいの?

どこへ行くでもなく、屋敷の中を徘徊した。

バケモノを倒す方法を、自分で見つけるんだ。

それから、どうにかしてここから出て、お姉さんを助けに行かなきゃ・・・

・・・・

あれから何年の月日が経っただろう。

外にはまだバケモノが出る。

この屋敷で年老いた者から次々と死んでいった。

僕も大きくなり、あの時の青年は僕の上司となって、戦闘部隊を統率している。

バケモノとの戦いは、連日の如く繰り広げられた。

屋敷の外には人々はなく、お姉さんの姿も見つけることが出来なかった。

もう、諦めていた。

毎日、外に出るのは食料を確保するためだ。

農地や家畜が荒らされることはない。

周辺地帯の農地や家畜の世話を欠かさず行うことで食料は保たれた。

屋敷に避難した人数だけは養えている。

恐らくこの暮らしを一生続けるのだろう。

あの得体の知れないバケモノ達は、どこから来たのだろうか?

なぜ、我々を襲うのだろうか?

襲われた人々は、どこへ行ってしまったのだろうか?

あの時のお姉さんのように、地面に引き釣りこまれ、生きながらに生き埋めにされてしまっているのだろうか・・・・

アルベルト博士のお化け屋敷には、まだ訪れていない部屋がある。

得体の知れないバケモノを倒す実験室でも作ってみるか。

アルベルト博士の実験室なら何処かにあるだろう。

部屋の扉をすべて開けて、実験室らしい部屋を探し回った。

おかしいな。それらしい部屋が見つからない。

書斎の裏に隠し通路とかあるのかな?

各部屋の部屋の隅々まで調べ回ることにした。

どうやら、二階には実験室はないようだ。

人がまばらになった一階のロビー。

ここはこんなにも広かったのか。

僕が初めて来た時はとても大勢の人で埋め尽くされていて、ここの広さを微塵も感じられなかったのだけれども・・・

ロビーの四方には、動物の置物が乗った支柱が建てられており、ロビー床の模様はその支柱へと伸びるように描かれている。

まさか、この動物に仕掛なんて・・・

僕は動物に手を触れ、持ち上げようとする。動物は支柱にびっしりと張り付いて動かない。

いや、これは回るんだ。

僕は支柱に乗った動物をゆっくりと回した。カチッ。何かのハマる音が聞こえた。動物はロビーの中央を見て止まっている。

もしかして・・・

僕は、全ての動物をカチッと音がするまでゆっくりと丁寧に回した。

すると最期に回した動物がカチッと音を立てると、ロビーの中央がゆっくりと開き、下へと伸びる階段が現れた。

地下室だ。

まさか、この屋敷にこんな仕掛けがあるなんて・・・

僕は青年に声をかけ、他にも数名の戦闘員と地下室へ降りていく。

アルベルト博士はいったいどんな実験をしていたんだ?

なんだろう?これは・・・

大きな機械類が今も脈動している。

ヴオンヴオンと音を鳴らして、いろいろな機材が点滅している。

実験室には、色々なところに紙が散らばっており、実験の途中で爆発でも起きたのか、または強盗にでも合ったかのように、散々としていた。

僕が機材の隅に落ちていた紙を拾い上げる。

瞬間移動装置の作り方??

成功したのか?こんな機械・・・

まあ、惨状から察するに失敗だったのだろうな。

他の紙もひと通り拾い集めることにした。

紙の中には、アルベルト博士の日記もあった。

日記の最期の日、恐らくアルベルト博士が実験に失敗した日。

アルベルト博士の日記にはこう書かれていた。

「実験は成功した。私は今日、瞬間移動装置を起動した。そして、別の場所に行ったのだ」

成功したことになっている。

本当に成功したのだろうか?

瞬間移動装置は起動したまま、何百年も起動していたことになる。

でも、これが本当に使えるのならば、僕達は危険を犯してまで外に出る必要はないんだ。

そう、無事に戻ってこれさえすれば・・・・

僕はみんなと話し合った。この実験の続きをしよう。

そう、無事に戻ってこれさえすればいいんだよ。

アルベルト博士が作った瞬間移動装置の解析を始めた。

僕達は一つのブレスレットを作った。

そのブレスレットを腕につけ、コンピュータと同期を取り、無線で操作する工夫を加えた。

アルベルト博士は本当に瞬間移動装置を完成していたのだ。

僕や他の戦闘員達も、その場所から1階ロビーまで移動できたのだ。

これは使える。どうやって戻る?

移動軽度緯度を修正し、もう一度瞬間移動を行う。

コンピュータを操作する人が居れば、僕らは自由に移動ができた。

移動の担当は、あの時の青年だ。

もう十分過ぎるほど中年になっていた。

戦いにも参加することはなく、司令塔として力を発揮していた。

僕はふと考えた・・・

あの時、お姉さんとはぐれた、あの場所にもう一度行きたい。

何処だったかはよく分からない。

子供の足で昼夜走ったとして、およその辺りにしか飛べない。

その場所が安全な場所なのか危険な場所なのかも誰も知らない。

瞬間移動するだけ、それでもとても危ない事だ。

ただ、僕達は未開の地に調査に行くことをここ何十年も怠っていた。

少しづつ距離を伸ばしていけば、そうとも考えた。

いや、間違いなくそれが安全な方法だ。

それでも、僕はお姉さんに会いたいという気持ちが先走り、

おおよその判断で遠方に瞬間移動すると勝手に決めた。

司令塔にお願いし、ほぼ見苦しい嘆願をし、周りに戦闘員がいることもお構いなく、土下座までして旅立つ事に決めた。

旅立ちの日、夜までの自由時間をもらい、僕は瞬間移動を行った。

瞬間移動中に異変が起きた。

何かがおかしい。時空の歪みを感じる。

ここは・・・・・過去。

移動の距離が遠くなるほど、過去に遡るのか・・・タイムリープだ。

あそこにいるのは、幼いころの僕と、お姉さん・・・・

ここは、パラレルワールドなのだろうか??

恐る恐る近づく、お姉さんは僕を見ている。

幼い僕と、今いる僕を・・・

僕はお姉さんに声をかけた。

ぼく:「お、お姉さん。僕がわかるの?」

幼い僕に気付かれないように、気配りをしながらコクリと頷いてにっこりと微笑んだ。

僕はやっぱりお姉さんのことが好きだ。

自分に起きていた過去の出来事を全て忘れ今、僕はお姉さんと一緒にいる。

僕とお姉さんの年齢は、今は同じぐらいだろうか?

僕は、お姉さんとゆっくり歩き始めた。

僕は、幼い僕には見られていないようだった。

ワザと頭を叩こうとしたけど、僕の手は体をすり抜け触れなかった。

自分自身には見えないし、触れない。タイムリープの影響なのだろうか?

それとも、お姉さんには特別な力が合って、僕を見ることが出来るのだろうか?

でも、これから起きることを考えると僕は怖くなった。

ぼく:「お姉さん。これから僕達も得体の知れないバケモノに襲われ始めるんだ。アルベルト博士のお化け屋敷までなんとか逃げて欲しい。避難すれば安全だから、もう既に大勢の人が避難してると思う。そこまで一生懸命逃げて欲しい。僕は、これからずっとその得体の知れないバケモノと戦って生きてきたんだ。お姉さんも逃げ切って!」

お姉さん:「そう、そんな事になったのね。私も戦うわ」
そうだ・・・この後だ。突然、お姉さんが地面に引き釣りこまれたのは・・・・

お姉さん:「ねえ、アルベルト博士のお化け屋敷知ってるでしょ?」
幼いぼく:「うん。知ってるよ」
お姉さん:「そこまで逃げれるね?」
幼いぼく:「うん。行ける。お姉さんは?」
お姉さん:「大丈夫。直ぐに会えるから・・・きゃ」

あの時と同じようにお姉さんが地面に引き釣りこまれ、確か自力で・・・

違う!!!自力で助かるはず無いじゃないか!!

僕は慌てて手を差し伸ばし、地面にすっぽり隠れる寸前で、手を捕まえた。

そして、僕は引き釣りこまれるお姉さんを救い上げた。

幼いぼく:「お、お姉さん・・・だ、大丈夫?」
お姉さん:「大丈夫よ。アルベルト博士のお化け屋敷まで逃げてね。そうね。大丈夫よね」

お姉さんは幼い僕に答えた後、僕を見てニッコリと微笑んだ。

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