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12/3の破壊者

12月2日、取引会社の社長さんから解体依頼が入った。
事情は知っている、1日に警察が事情徴収に来たし、色々あったのだろう。
電話口でも声が震えているのがわかった。

「おはようございます。」
俺は極めて明るく接しようと普段どおりのトーンで会話を初めたが、社長さんからはいつもの元気は感じられなかった。
「いやー、話は聞いていますよ。警察の人もうちに来てね。まさか、あの人があんな事になるなんてね。世の中わからないもんですねえ」
聞いているのか聞いていないのかわからない。
顔も合わせないし、返事もない。

気まずい。

「でも、さすが社長さん。ピンチをチャンスにって感じですね。今の御時世、オフィスレスって……」
なんだか余計なことを口走っているようだ。
反応もないから、一方的に話しているみたいで気まずいし、話しかけるのを途中でやめるのもなんだか気まずい。

「それじゃ、ちゃちゃっとやっちゃいますか?作業は2・3日はかかりますが、終わったら社長さんにご連絡しますね。廃材はこちらで処分させていただきます」

重苦しい空気から逃れようと、持ち込んだショベルカーに乗り込んで、重機を動かす。
ガシャンとショベルカーの爪がオフィスにめり込み、バリバリバリと壁を破壊し始める。
今日もいい音だ。
仕事をしている音、破壊して破壊する楽しさ。
この仕事をしている時、なんだか気分がすっと落ち着く。
日常の苛立ちも、壁が壊れる音に紛れて、消えてなくなるかのように、この最初の一撃はいつも気分爽快だ。

作業を始めると社長さんは、車に乗り込んで、何も言わず帰っていった。
ショックなのはわかっているけど、もう少しなにかあるだろうに……
まぁ、でも色々ありすぎたんだな。
会社のお金を盗まれて、倒産して、真面目だった社員が窃盗事件。
俺だったらどれだけ耐えられなかっただろう。

うちの会社は大丈夫だろうか?
まあ、経理はカミさん。夜逃げするときは、あっても経費を持ち逃げするなんて……
考えただけでも恐ろしい。
カミさんに限ってそんな事はないのだろうけど。

ガシャン、バリバリバリ
今日もいい仕事をしているな。俺……
ガシャン、バリバリバリ

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