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「掬」


永い時をかけて大切にしていることばがあります。つと、見知らぬ誰かが。袖すれあった誰かが。親しくしている誰かが見つけて。そっとその手に掬いあげてくれることがあります。金魚掬いみたいに。

秋祭り、夜店に並ぶ金魚掬い。四角い水槽にチロチロと泳ぐ。赤い金魚。黒い出目金。お気に入りをめがけて直感が掬い上げたときの。パーンと音が弾けたような。喜びに似ています。

赤い金魚みたいな。黒い出目金みたいな
ことばたち。

水槽のなかを泳ぐことばたち。てんでばらばらに見えることばだけど。みんな、同じ方向に口を向けて流れがひとつになっています。いつの間にかことばは物語を作って泳いでいるのかもしれない。

小説のなかにも思わず直感が掬いあげてしまうことばがあります。心動かす新しい感覚と思いきや。松果体を通ってジンワリと皮膚の下にもぐりこんだことばは。私の持っていた古い瘡蓋をめくり。すっかりと乾いていることに気づかせてくれることしばしばなのです。

忘れていた。忘れていた振りをしていた私が作った瘡蓋。頃合いを計ったかのように。掬い上げたことばが瘡蓋をベリッと剥がして再生を促します。なんだか、こんな時のことばは水の持つ性質によく似ているなぁと。思ったりします。

砂地に染み込むように。私のからだに染み込む。水のようなことば。私のからだにある淀んだ場所に流れ込み。波紋を呼び動を起こす。時には蒸発して消えてなくなることもあった。ことばの水。

からだが乾くように。精神が乾くのを感じるときがあります。そんな時。誰かと話したことばに潤い。過去、励まされた本に再び励まされたりします。 

唐突にケビン・コスナー主演
「フィールド・オブ・ドリームス」が無性に見たくなりました。主人公レイは小説のことばでも会話のことばでもない。空間にあったことばを掬いあげることで亡くなった父親との再会の旅へと突き動かされるのですが。ホントに優しい気持ちになれる映画のひとつなんです。

ことばは水の中に。
ことばは小説の中に。
ことばは空間に。 
変幻自在に絶え間なくわたしたちに
語りかけている。そんな勝手な想いにふける
秋の夜でした。



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