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漂泊者

 人の「使命」や「宿命」は、人の数だけ内容が違って当たり前です。人に限らず、動物や植物、虫、魚等、また、感情を持たない石や流れる川や海。宇宙の星etc。
感情を持つもの(人や動物)を有情、そして感情の無いものを無情と区分されています。

 別に宗教や哲学の話しではなく、これまで私が関わった人達へのお話です。


仕事で関わって来た、特にその内の3人ほどは、今でも忘れることが出来ないほどの人でした。

 今回は、女性Yさん。
天才的な感性。天才的な浪費家。天才的な非常識。いつも空腹感があるのに、しかし、顔立ちは世間離れしたような美人。そして世間の多くの子どもたちからは、不思議なほど慕わる天才。

このYさん。上げれば切りが無いほどの不思議な種と話題を持っていました。
そして、ある意味、福をもたらすような存在でもありました。
下手をすれば、周りへはリスクの火の粉。

毒なのか薬なのか、周りが常識を考えて決めつけると、毒以上。そうでなければ薬。
 

いずれにせよ、人が常識を持って関わると、関わった人が家族であろうが親しい人であろうが、男女であろうが、子ども以外は骨の髄まで、エネルギーが吸い取られてしまいました。

大げさに表現するならば、冒頭に書きました有情、無情までも。植物も枯れる。
振る舞いは驚愕するばかりでした。ただ、不思議と人には恨まれないYさん。

ご両親は定年されており、教育者だったようです。妹さんも物静かで、常識をもった信用のおける方でした。

Yさんの自宅に何回かお伺いしたことがあります。
ご両親は近所にもう一軒、小さな自宅を建てられました。
もう一軒建てる……。裕福なお宅であったことは間違いありません。

何故かというと、ご両親はYさんと不仲なこともですが、なんと、Yさんが何年も購入し続けた通販の品が、二階の部屋の天井まで山積み。もちろん、Yさんの八畳間と思われる部屋も同じ状況。物で溢れかえっていました。

二階に上がる階段は、通販で買い求めた未開封の品物がビッシリ。本人も何度も足を踏み外し落ちたようです。
笑いながらYさんは言います。
「足を踏み外さないで下さいね。ゆっくり上がって下さい」

シリーズ物のコミック、シリーズ物のDVDが沢山.。全て一巻から全て揃っていましたが、しかし、一巻でも紛失したら、一気に価値を感じなくなると言っていました。しかし、それらを揃えても、どれも一回も見たことないらしく、コレクターと位置づけるには、ちょっと違うような……。

化粧品、食器、洋服、この世の物は軍事用品と宇宙ロケット以外、殆ど揃っていました。私と一緒にお邪魔した仕事関係者が「一人でフリマが開けますね。ネットで販売すれば、数百万かそれ以上売れますよ」
単品を人に上げることがあっても、絶対に売らないと言っていました。

Yさんは、掛け布団を二つ折りにして、残り半畳のスペースに寝ているようだと、別な友人から聞きました。

二部屋とも天井まで10cm程度ほどのスペースしかなく、壁が歪んでいると、ご両親や妹さんが悩んでおられ、私達からYさんに何か言ってくれないかと頼まれたのですが、状況が状況だけに、ちょっと意表をつく驚きで、何をどう言えばよいものやらで、困り果てました。
ゴミ屋敷とは違い、一階の客間とキッチン、トイレなどはゴミ一つ落ちていない、まさにピカピカ。

ある日、忽然と私達の前には現れなくなったのですが、別段、理由は大した意味もなく、私達の仲間の一人が転勤になり、全巻揃ったシリーズ物のコミック本やDVDと同じように、私達は〝全巻〟揃わなくなったので、価値は無くなったと思われたようです。

Yさんは東京の大学を卒業後、帰郷するまでの10年間を、就職もせず、どのように生活をしていたのかが不明でした。

ご両親が近所にもう一軒家を立てたのは、二階からミシミシという異音がするようになり、家が崩れそうだとの理由からでした。

接触が無くなり、数年が経ったある日。
家の前を車で通り過ぎたとき、あれ?と思い、引き返してみると、全く別な新築の大きな家が建ち、小さな子供がいるような、別な家族が暮らしているような感じでした。

気になったのは、以前のあの立派な家はどうなったのかということと、あれだけの〝品物〟はどうしたのだろうとの疑問でした。
近所にご両親が建てた家は、きちんとありました。

ただ、あの時期は、私達に大きな良い結果を与えてくれた人でもあります。
仕事で参加するプレゼンに、ことごとく受かったこと。
Yさんに依頼した仕事だけが、そんな結果を出したのです。

このYさん。帰郷して何年もの間は、ご両親の元で静かにしていたようです。 
東京で漂泊者のごとく暮らしている間、数人の人が大切な人生の線路から脱線し、例えるならば、動かなくなった貨車に乗り込んで、生活をするというようなパターンだったことを、Yさんの妹さんから聞いたときには、言葉が出ないほど、私達は驚いてしまいました。

私は、仕事上で何度かリスクを背負わされたことがあっても、悪い評価などを考えたことはありません。
このように文章で書くと、文字からだけでは伝わりにくいのは事実です。
この天才漂泊者が漂泊者でなくなる時期には、必ず独特な波形があるように知ったのは、私達の前に現れなくなり、数年後に分かりました。

この続きは、次回に。

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