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月が綺麗だから。/ 男性一人用台本

本編

月が綺麗だから・男性1人用台本

今日は月が地球に最も近づく日らしい。
ふと思い出した頃には、もう12時を回っていたけど。

何時間座っていたのか、
重い腰をあげると凝り固まった体が鳴る。
視界に入るすっかりちらかった部屋に
またため息がこぼれそうになったその時、
「幸せが逃げるよ」と怒る君を思い出して、
気がつけば吐きかかった息は笑いに変わっていた。

ベランダに出て夜の空気に触れる。
少し空を見るだけのはずだったのに、
静かにそよぐ風が気持ちよくて、
あと少し、と何度も思い、
その度に自分に負けた。

いつもより大きい月は、
眠った街を明るく照らす。
その光に誘われた1匹のうさぎが今、
僕の携帯を鳴らした。
普段なら着信音が止むのを待つ。
苦い顔をしてベッドに入る君を想像して、
俯いて、またため息をついての繰り返し。
だけど今日はいつもより月が綺麗だから、
なんて自分に言い訳をして、
震える指で緑マークをスライドした。

自分でかけてきた癖に驚いている君の声。
「これは夢だよ」って言ったら、
「じゃあ、覚めなくていい」って返してきた。
変わらない君のことが愛おしくて、
ずっと、この時間が続けばいいと思った。

うさぎの目は水のフィルターにかけられて、
僕らの空に浮かぶ大きな丸を歪ませて写す。
少し潤んだ僕の目はきっと、
君と同じ景色を写してる。
まだ、あと少し、負けていようと思う。
だって今日は、月が綺麗だから。

後書き

テスト勉強をしていた時に散らかった机と部屋を見て描き始めた物語です。受験生になるからと別れるカップルじゃないですけど、自分がなにかやらないと行けないことがある時って、なにかに蓋をするじゃないですか。でも、開きたくなる。そんなお話を今回は描きました。
夜空って、毎日見られるし特別なものでもないのかもしれないけど、それぞれ顔が違う気がして、眺める度に現実離れした気持ちになれるような気がします。是非一日の終わりには上を見上げて見てください。

2022.07.02 音葉 心寧


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