想像すること

家にいる時間が増えた。

部屋にいると、いろいろな音が聴こえててくる。
近くを走る電車の音。誰かが駆けていく足音。
同じアパートに住む人たちの生活音。

上の住人は大学生である。
というのは僕が勝手に思っていることなのだけれど。
毎週末になると同じ大学の仲間を読んで飲み会をしている。
響く笑い声。乱暴に閉められる扉の音。大塚愛の「さくらんぼ」に合わせて、歌い飲む。
家でもやるんだ!飲み歌。
彼の生活は、あまり変わらないように思う。

隣の住人は天狗である。
というのは僕が勝手につけているあだ名なのだけれど。
毎朝5時半に起きてお経を唱えている(般若心経のようだ)。昼は西田敏行の「もしもピアノが弾けたなら」を毎日欠かさず歌っている。夕方になると誰かと電話をしたり、テレビを見たりして過ごす。
そんな天狗だが、最近ちょっぴり元気がない。
この前も、俺はもう駄目だ!駄目なんだ!!!なんて大きな声で叫び、もがき苦しんでいた。
彼の生活は、ほんのちょっとずつだけれど変わっていっているように思う。

僕は学校で働いている。
いま学校はコロ休み(勝手にそう呼んでいる)だけれど、あまり変わらずに出勤している。それでも朝から晩までせわしなく働くことがなくなった(できなくなってしまった)ので、気持ちにも身体にも少し余裕ができてきた。
朝はのんびり起きるし、夜はインターネットで映画を見ながらデパ地下の半額弁当を食べている。
・・・僕の生活は、どのように変わっていくのだろう。

僕らの生活は今、毎日のように変化している。
つい3日前まで多くの人が当たり前と思っていたことが、急に当たり前ではなくなったりする。正しいと思えることが変わってゆく。世界の見え方や、空気感が変わっていく。
想像力が追いつかない、と思うことがある。

それでも、想像したり、考えたり、そうして自分の思いをもったりすることをやめてはならない。僕はそう信じているし、僕はそれを子どもたちに教えている。

ああ今の音は何の音だろう、などと考えながら。
想像すること。

もすり
東京都小学校 図画工作科教員 


「音とわたしのこと」は、新型コロナウイルスの流行という未曾有の事態に直面している2020年の春、いま身のまわりに実際にある音や音楽のこと、そこから誰かが考えたこと、を書き記しています。
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