夜中のライブハウスに

タイトルは好きなシンガーソングライターの尾崎リノさんの曲名から取った。この曲は景色、音楽、日々の生活を感じる。ライブハウスの煙さ、埃っぽさ、汗臭さ、酒の匂いまで思い返される気がする。今日はそんな自分とライブハウスを見つめ直すためにこの文を書いている。

未曾有の状況だ。とは言っても、ウイルスは目に見えない。自分は保菌しているかもと思うけど、そうじゃないかもしれない。東日本大震災を経験したあの頃と違うのは、目に見えないという曖昧さ。日々政府の批判を繰り返すワイドショー。センセーショナルな見出しをつけて140文字に要約されたツイートたち。何が起きてるか見えない分、震災の時にあった日本が一致団結していた、行政と民衆と企業の暖かさは消えた。あの時使い物にならなかったフューチャーフォンは消え、この小さいスマートフォンから無機質な言葉が飛び交う。いつだか授業で聞いた「音は暗闇でも位置を伝える。」、音は何も聞こえなくなり家の中に伝わるのは自らの生活音だけになった。

僕はVJをしている。VJって言うのは、ライブやパーティのときに映像を流すっていうことだ。6月までおそらく5個くらい現場が決まってただろうか。いままでにない大きな規模ばかり、誰もが知っているアーティストともやれるチャンスを感じていた。これから先もしかしたら多忙になるかもしれない、学校に行けなくなる日も来るかもな。そのために、どんなムードになっても俺はライブをし続けよう、と3月の自分は思っていた。
全ての現場が消えた。学校も延期。アルバイトも仕事がない。金銭もやることもなくなった。ライブハウスが槍玉に上がることも多々見た。
ミュージシャンが全ての主役だけど、その中には箱のスタッフ、演出家、舞台を組む人、照明さん、音響さんetc...多くの人間がいて、「裏方」と言われるけど彼らは彼らでミュージシャンの景色を守るために必死に働いていた。そして、一人のアーティストと同じように、必死に自転車操業をしていた。
先週くらいからライブハウスが潰れる、もしくはクラウドファンディングを開始するというニュースが増えた。僕も署名したが「#SaveOurSpace」という署名活動によって国からライブハウスのスタッフへの補填を持ちかける動きが出てきた。#SaveOurSpaceのニュースにはまたもやいろんな批判が飛び交った。「ミュージシャンはいつも金を稼いでるはずなのにこんなときだけ国に縋るのか」「人に迷惑かけて、その上税金まで使うつもりか。さっさとやめて適当なバイトでもしろ」何度こんな言葉を見ただろう。やるせない気持ちになる。

一方で著名なトラックメイカーが中心となり、MU2020というライブ配信が行われた。このイベントでは数百万の投げ銭が起きたという。
絶対にライブがなくなっても、また帰ってくるとずっと思っている。生での空間に行く、あの高揚感、リアルタイム感は配信によって失われるかもしれないし、この自粛ムードの揺り戻しが来ると信じている。
だけど、もしかしたら形態は変わる可能性もある。人はどこでもお酒を飲まず、コロナ以後も""物理的な""ソーシャルディスタンスは広がり続け、全てがスマートフォン、そして次世代デバイスの中での距離感になるかもしれない。試験管を握ることもなく、測定も全て機械が行い遠隔通信で行う時代になるのかもしれない。

なんとも言えない、視聴覚じゃない、感情的なモヤモヤが広がり続ける。

でも自分は、リアルタイムでの光を扱うアーティストだから。音楽の視覚化を行い、観客の感情を照らす。歓客が肩組んで、出会いがあって、びっくりするくらいに昂ぶって喧嘩する奴もいれば、感動のあまり泣き出すこともある。そんなライブハウスの景色が好きだ。絶対に自分の大好きな景色にみんな帰ってきたときのためにいまは部屋で生活音の中でふつふつとネタをためている。
こんななかでもやれることを考える。俺もインターネットに乗って、通信回線通して誰かのスマートフォンの向こう側に行こうかなと思う。15インチのディスプレイの演算の中で起きる視覚表現と、そこから処理されるプロジェクターの光。自分のフィジカルはMIDI信号に変換され映像を制御する。まるでエレキギターだ。配信したらもちろんレイテンシがある。配信の音をもらって、光を出して、次々に遅延する。アナログとデジタルの結晶のライブという行為の中にまた帰れるように、レイテンシなく光も音も伝わるライブハウスに行き着くために今がある。
もしも自分が何かこの期間にできるなら、それがいいと思って、また誰かが見に来てくれる機会を作りたい。スマートフォンじゃなく、リアルタイムで観たいと思わせるようなものを通信回線介して届けたい。
全部ひと段落ついて、ライブハウスやクラブに来たら話しかけてね、一杯お酒を奢るよ、代わりに奢り返してよ、プラマイゼロでなんも変わらないけど、そうやってライブハウスに還元していこうよ、そして酔っ払ってうるさいライブハウスの低音と嫌になるほどの明暗の中で肩を組みたい。ライブを、音楽を、蔑んだ全ての人間に胸を張ってこれが自分の守りたい景色だと言いたい。これが俺の仕事だと言えるように生きている。

jotaka
VisualJockey。CCD1年になったらしい。やることなさすぎて家でレーザーを打つことにした。近所から変な線が出ているがあれは何かと警察を呼ばれそうで怖い。スモークマシンとミラーボールとムービングライトが家に欲しいので誰か買ってください。

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「音とわたしのこと」は、新型コロナウイルスの流行という未曾有の事態に直面している2020年の春、いま身のまわりに実際にある音や音楽のこと、そこから誰かが考えたこと、を書き記しています。
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