隣のテレビの音と救急車のサイレン

自宅での活動がメインになって2週間ちょっと。もともと大学院生の上春休みで、仕事も学業もパソコンがあればどうにかなるのがここ1年ぐらいの内容だったので、ウィルス騒ぎが出てからもさほど支障は出ていない。
とはいえ、去年もメインで仕事をするのは基本的に大学だった。
その大きな理由の一つが、隣の部屋から聞こえるテレビの音量が大きすぎて気に障ることである。
大学院進学とともに福岡に引っ越してもう4年目になるが、今の家にはテレビがない。実家にいた頃も一人で過ごしている時はテレビの音はうるさいので切っていたし、たまに見たいと思うアニメとかはほぼNetflixで見られるので困ることはない。

隣の部屋のテレビの音量はとにかくでかい。こちらが窓を閉め切っているにも関わらずドラマのセリフの内容がおぼろに聞き取れるレベルにはでかい。家の防音が悪いのかというとそういうわけではなく、きちんとしたコンクリの家だし、自分の部屋でスピーカーからそこそこ大きいと思う音量で音楽を流し、ベランダに出て、窓を締め切るとほぼ聞こえなくなるレベルには防音性がある。にも関わらず隣のテレビは全力で聞こえて来る。

聞こえて来る内容はだいたい、ドラマ(時代劇が多い)かバラエティ番組で、ハードボイルド物か何かで銃撃戦とかが聞こえて来る日にはかなり気が散る。
その上、時間がとにかく不定期だ。平日だろうと休日だろうと、そして平日真昼間だろうと日曜日の深夜2時であろうと、聞こえて来る日は聞こえて来るし、来ない日は全く来ない。隣の人がどういう働き方をしてどういうリズムで生きているのか知らないが、週1コマしか授業が無い大学院生よりよっぽどフリーダムな生活をしているらしい。

住み始めて半年ぐらいで耐えられなくなりアパートの管理会社に電話をしたところ、特定の人に角を立てないために住人すべてに「自覚がある人は音量を控えてください」的なやんわりとしたお知らせが投函され、隣人は特に変化が無かったので、今はうるさい時は自分が音楽を流すようにして半分諦めることにしている。

ところで、今住んでいる家は比較的近くに大病院があり、そこまでやってきた救急車のサイレンの音が家から聞こえる。引っ越してきた直後にはこのサイレンが夜中だろうと真昼間だろうと、平均して1日2回ぐらいは聞こえてなかなかげんなりした気分にさせられた。緊急地震速報にしてもそうだが、注意を促す音を不意に聞かされるというのはしんどい。それも、普通は遠くからやってきて去っていくだけのサイレンの音が、突然鳴り出したり、あるいは途中でプツっと止まったりするのだ。このサイレンの始まりと終わりというのはただ鳴っているだけの状態よりもはるかに、そこに具合が悪い人がいるという実在感をもたらす。

サイレンの音そのものは周りの車へ車両を優先して通して欲しいという機能的な報知音であるが、「サイレンが始まったり終わったりする」というのは、その止まった箇所に患者がいる、という事や、その場所でこれから治療行為が行われようとしているのだ、という事を暗に示す機能を持ってしまっている。それを体が自然と覚えているようなのだ。

の、はずだったのだが、どうやらこちらに関しては3年も過ごしているうちに慣れてしまったらしい。今日、というかここ数日間過ごしているうちに救急車のサイレンが聞こえた、という具体的な記憶は一つもない。運ばれて来る救急患者の数はそうそう変化するわけもないので、、、あ、などと書いていたらたった今救急車の音が鳴り始めて、どこかへ消えていった。気づくまでに5秒ぐらいタイムラグがあったし、これを書いていなければ気がつかなかっただろう。やっぱり自分が慣れたのだ。

これと同じくらいに隣のテレビの音量も気にならなくなってくれればいいのだが、これだけは一向に慣れる気配がない。
これだけ感染症というトピックが世を席巻する中でさえそれを象徴するようなサイレンの音よりテレビの音が煩わしい。
これから夏になって来ると窓を開けて過ごす時間も多くなり、そうすると音量も大きくなる。そうするとしょうがなく早い時期から窓を閉めてクーラーで生活することになり電気代が嵩む。既に今から憂鬱である。

松浦知也
九州大学大学院博士後期課程。自分で作った楽器を使って演奏したり、音楽のためのプログラミング言語の開発をしたりしている。今年度から別の大学で非常勤のコマを持つことになったが、いきなり開始時期が遅れたりリモートになりそうだったりで困っている。

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「音とわたしのこと」は、新型コロナウイルスの流行という未曾有の事態に直面している2020年の春、いま身のまわりに実際にある音や音楽のこと、そこから誰かが考えたこと、を書き記しています。
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