見出し画像

ディストピア、マイナンバーでは力不足(2024.05.11)

・目を「Orb」という機械に読み込ませると、もれなくWorldcoinという仮想通貨がもらえる。合計で70WLD(現在6万円くらいの価値)だ。


・渋谷の雑居ビル内の4階、ちゃらついたいけすかない服屋の脇(渋谷の街の大部分はいけすかない何かでできている)、細い通路の先にこの冗談みたいな扉がある。


・中央の看板には"CENTRUM(ラテン語で"中央"の意らしい)"左の柱には目のイラスト、右の柱にはビットコインのマーク。ドアの覗き穴からは男が気さくな感じで"入って来いよ"と言っている。


・怪しすぎる…が故にテンション上がる〜
 ションテンガリア〜


・そもそも、WorldcoinとはOpenAIのサム・アルトマンが設立に携わっている仮想通貨で、将来的にAIが人間の仕事をみんな奪い去ったとき、ベーシックインカムを配るために作られた。


・つまり


・そのうち金はぜーんぶAIが稼ぐようになるから、人間は働けません!でもAIが出した利益はみんなに配るようにするからオッケー👌それ受け取る準備をしといてね!ってことらしい。生体データをIDに紐付けることによってWLDを受け取れるようになる。



・これがその認証システム「Orb」だ。朝露が周りの景色のすべてを映すように、このメタリックな球体には世界のすべてが内包されている…そういう"裏の意図"の存在を感じさせてくれるグッドデザインだ。


・本当は「Orb」の中心から無数の赤外線レーザーが飛び出てきて僕の目をスキャン、みたいなスマート認証してくれるのを期待していたけれど、まだまだ現実はSFに追いついていないらしい。係員さんの「瞳の下側が隠れてます!」「もう少しだけ顎を引いてください!」「まばたきは我慢してください!もう少し!」という指導のもとで、まごつき狼狽え冷や汗をかきながら、ようやく3回目のトライで認証することができた。


・僕は一刻も早く自分の虹彩データをWorldcoinに替えることを望んでいたけれど、それはお金が欲しかったからではない。コインチェックなんかにも登録していないしね。ただ一心に"管理されたい"という強い願いを叶えたかったのだ。


・SFが好きな人には気持ちがわかってもらえると思う。近未来SFに「ディストピア=管理社会」はつきもので、『1984年』『サイコパス』『ハーモニー』で描かれるような社会の構成員に僕もなったのだ、と思い込むことによってこれからの人生を楽しく過ごしたかった。


・虹彩を受け渡した後の高揚は、想像していたよりも清々しく静かなものだった。まず、ぐだぐだだった手続きが終わったことにほっとして、そのあと晴れて自分もAIに管理される側の人間になったのだという事実がぼんやりとした喜びを与えてくれた。


・"管理されている"ことに気がつける人間は、大体の場合においてシステムに楯突く主人公側だ。そしてろくでもない末路を迎えることが決まっている。人間がすべて"個人"ではなくシステムの一部と化している世界に疑問を覚え、反旗を翻したときにはもう遅く、再教育なりが施されるのがディストピア世界の常なのだ。


・それはごめん被りたいので、だから僕はこの世界のおかしさに感づいているものの、与えられた作業(AIの手を煩わせることもない簡単なもの)をこなし、毎月のベーシックインカムをありがたく頂戴する立場の人間として生活していくことに決めた。


・その暮らしを薄い膜で包んでいるような絶望感のことを思うと、なんだかゾクゾクしませんか。そのゾクゾク感を手に入れたくて意気揚々と虹彩データを渡したのでした。かつてあった旧い世界への郷愁を感じながら、毎日沈む夕日を眺められたら最高だと思いませんか。


・虹彩データを悪用されることは簡単に想像できるので安易におすすめはしないですけれど、日常に退屈さを感じている人はご一考ください。謎の機械で目をスキャンしただけなのに、自分の生活が一変してしまうような世界システムの脆さを体験することができると思います。やるときは自己責任でお願いします。


・明日は東京に行ったいちばんの目的であるオザケンのライブについて書きます。


・また明日〜。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?