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大人なら読んどけ、なSF。眉村卓『司政官 全短編』を読んだら

地球人類が宇宙に進出し、多くの惑星に植民していった時代。高性能のロボット官僚を駆使して植民惑星を統治するのが司政官の業務です。
植民が始まった当初は軍による統治でしたが、さまざまな軋轢が生じたため、司政官制度に移行していったのでした。
植民惑星には植民者と独自の文明を持った先住生物が混在しており、その両者を統治するのはたいへん高度に複雑な仕事なのでした。

という司政官シリーズの全短編7作が、執筆順ではなく、作品内の設定年代順に収録されています。
短編とはいえKindle換算で約640ページに7作。どれも読み応えのある長さでした。
一本目の「長い暁」なんか200ページくらいあるので、やや薄い文庫本一冊くらいの分量です。短編と思って読み始めたらなかなか終わらない。面白かったですけどね。

それぞれ課題を抱えた司政官たち。それは先住生物の奇妙な風習だったり、植民者のわがままや、先住生物からの要求だったり、自然現象だったりそれらがまとめて降りかかってきたりで、司政官には気の休まる暇がありません。
そしておそらくそれが司政官としての資質の一つなんでしょう、みなさん内省的で、一つの出来事に対していくつもの仮説を立て、対応を選択、実行していきます。大人です。
内心焦りを感じていても表には出さずに、ロボット官僚にまで気を遣います。「今ここでこんな指示を出したらこんな反応をするだろうからここは黙ってよう」とか。気苦労が絶えません。

どの植民惑星もそれぞれ条件が違うので、司政官は派遣先ごとに対応しなければなりません。前任者からの引き継ぎもありますが、それも時には当てにならなかったり、自分の倫理観と合わない方法を求めるものだったりで、やっぱり姿勢方針は自分で構築しなければなりません。

この本と並行して先日感想をあげた『万物の黎明』を読んでいたのですが、司政官が赴任した惑星の自然現象や先住民の生態などをその目で見て解釈していく方法が、『万物の黎明』に書かれていた人類学、考古学の方法と似ているように思えました。
発見された事実と合理的な推測の組み合わせで未知のものの全体像を構築してゆくやり方。新しい発見や間違いが見つかればまた作り直してゆくそのやり方が。
(『万物の黎明』感想こちら →『万物の黎明~人類史を根本からくつがえす』“The Dawn of Everything” を読んだら

というわけで、じっくりSFを読みたい方にはおすすめです。

眉村卓『司政官 全短編』


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