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名優二人のデコの皺合戦。映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』 “Killers of the Flower Moon”を観たら

アメリカ先住民オセージ族の居留地で、儀式のために掘った穴から原油が噴き出し、採掘権の分配金でオセージ族はみんな大金持ちになります。
それで幸せになったかと思うと正反対で、財産目当ての白人がオセージ族の女性と結婚するようになります。
それはお金目当てにとどまらず、暗い暗い人種差別に根差した大事件でした。
冒頭、原油で利益を得たオセージ族の人たちが次々に殺されてるけど事件は全て「捜査は行われず」、というような説明がありますが、その「未捜査」の理由が徐々に明らかになってゆきます。

という、観ていてどんどんいやになってくる映画。でも観られるなら観たほうがいい映画。
「謎の未解決殺人事件」というと以前読んだロベルト・ボラーニョの『2666』という小説を思い出しました。あちらは南米ですけど。

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

ロングプレビューはこちら →「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」ロングプレビュー

街を支配する偽善ギャングの親玉キング(ロバート・デ・ニーロ)、その甥で、キングの強欲構想にどんどん取り込まれてゆくアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)。
いやもうね、そこそこのワルだったアーネストがどんどんキングに絡め取られ、断りきれずワルなりの倫理観をも踏み越えてさらに悪事を重ねていく展開は怖くてしょうがないです。一度足を踏み入れたら引き返せないんですね、悪の道は。そういう構造になってる。最近話題の闇バイトの手口を思い出しました。
そしてワルなりの倫理観ハードルを越えさせる理屈が「相手はインディアンじゃねぇか、なにを気にしてるんだ」というもので、なんかもう、こういう手口を拒否できるように肝に銘じておくべきだと思いました。

お芝居のこととかよくわからないのですが、アーネストの悪事が深くなるにつれてディカプリオの人相がどんどん悪くなっていくように見えました。眉間の皺の寄り具合とか。
ロバート・デ・ニーロ演じるキングも表向きの善人の顔と裏の顔を眉間とデコの皺で演じ分けているように見えました。照明効果かもしれませんが。

これ、さらにいやなことに実話が元になっているそうで、原作ノンフィクションが日本語でも出版されています。
『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』
元々は『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』として刊行されましたが、改題して文庫化されたそうです。
事件当時の文献から真相に迫ったノンフィクションなので、文献に使われている通りに「インディアン」という単語が使われていルソウで、映画でもそれに倣っているとのことです。
そりゃそうですよね。ひどい差別してる奴らが気を遣った単語で喋ってたらその映画はもう死んでますよね。
ホントにいやな事件ですが、この事件などをきっかけに、地元の権力関係に左右されない捜査機関としてFBIが設立されたようです。わずかに救いといえば救いですかね。
この原作もぜひ読みたいな、と思うのですが、読まなきゃいけない本が大量にあって読むとしたらずっと先になっちゃうかなぁ。

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