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2月2日、17世紀後半、イギリス・オペラの黎明期を生きた、パーセルを改めて見つめて...

ジョナス・デスコット率いる、スイスの新たなピリオド・アンサンブル、レ・ザルゴノートの歌と演奏で、パーセルのオペラ『ディドとエネアス』に劇付随音楽『キルケー』。
APARTÉ/AP296

17世紀後半、イギリス・オペラの黎明期、台詞が歌われることに未だ抵抗感が持たれていた頃に作曲された、パーセル(1659-95)の2作品、オペラ『ディドとエネアス』と、チャールズ・ダヴナントの悲劇『キルケー』のために書かれた音楽(エアとコーラスの数々に、魔法のダンスからなる... )。対照的な2作品... オペラ受容のステップとして、イギリスを席巻したセミ・オペラ(神々やら妖精たち、超自然的キャラのみが台詞を歌う... 台詞を歌うという普段あり得ない状況は、この世ならざるものの所業ということで、ごまかした?)、そうした性格を持つ『キルケー』のためのエアにコーラスなどに対し、『ディドとエネアス』は、当時の意識高い系、本場イタリア流に全ての台詞を歌う、完全なるオペラ。パーセル、唯一の完全なるオペラ...

古代ローマの詩人、ウェルギリウスの叙事詩に基づく、イギリス・オペラの記念碑的作品、『ディドとエネアス』。だけに、その音楽、まるで、カメオに描かれる古典美を極めた情景を展開するようで、オペラのケレンとは違う次元にあるかのよう。が、デスコット+レ・ザルゴノートは、そういうステレオタイプに囚われない... というより、間もなくロンドンへとやって来るヘンデルを意識させる表情、ドラマを浮かび上がらせ、新鮮!いや、全ての台詞を歌った、当時のモダンとしての『ディドとエネアス』の魅力を掘り起こすのか... 掘り起こされての瑞々しさに惹き込まれた!

一方、『キルケー』のためのエア、コーラスからは、より花やかにして明快な音楽が繰り出され、『ディドとエネアス』の味わい深いドラマとは好対照!屈託の無い表情に、また魅了される。いや、デスコット+レ・ザルゴノートの、若いアンサンブルならではのフレキシブルさ、そこから湧き出る、しなやかな歌声、サウンドに惹き込まれる。しかし、『ディドとエネアス』も含め、何て瑞々しいパーセルなのだろう... パーセルのイメージ、軽やかに覆してくれるよう。

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