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12月19日、17世紀、北ドイツ、侮るなかれ... テノールが歌う、多彩にして充実した教会音楽の数々!

古楽やバロックで活躍するドイツのテノール、リヒャルト・レッシュが、ドイツのピリオドの名手たちが結集したアンサンブル、アンサンブル・ラ・シッラの演奏で歌う、テノール独唱による、17世紀、北ドイツの教会音楽集、"Wenn ich nur Dich hab"。
Carpe Diem Records/CD16330

リューベックの聖マリエン教会のオルガニスト、トゥンダー(1614-67)、その娘婿にして後任、ブクステフーデ(1637-1707)、その弟子で、フースムのオルガニスト、ブルーンス(1637-1718)という、17世紀、北ドイツで活躍した大家たちに、リューネブルクでオルガニストとして活躍したというクリスティアン(1626-97)にゴットリープ・フィリップ(1682-1723)のフロール親子、リューネブルクの宮廷楽団で音楽監督を務めた後、フレンスブルクのマリエン教会のオルガニストとなったマイスター(1638-97)という普段、聴かない作曲家たち、バッハ世代、ハンブルクで活躍したマッテゾン(1681-1764)まで、7人の作曲家によるテノール独唱による教会音楽、10曲...

17世紀、北ドイツと絞りつつも、取り上げられる10曲の多彩さに、ちょっと驚かされる。バロック後進国、ドイツの、その北の、でもって、プロテスタント圏となれば、やっぱ地味?なんて、漠然と思っていたのだけれど、それぞれに充実した音楽が響き出し、ドイツ・バロックならではの味わい深く、温もり感じさせ、何だかほっとする。かと思うと、マイスターの「ああ主よ、怒りにまかせてわたしを苛まないでください」なんて、オペラっぽさすらあって、イタリアに負けてない!惹き込まれた!

最新のイタリア・バロックにしっかりと反応し、魅力的な音楽を紡ぎ出す北ドイツの作曲家たち... もちろん、イタリアのような大胆さ、華麗さには及ばない。が、ドイツにはドイツの道がある、という気概も感じられ、それがまた、より人間味に溢れる音楽を実現し、魅力的!ドイツの17世紀といえば、三十年戦争(1618-48)... 人口は減り、国土は荒廃し、当然、音楽も大打撃を被るのだけれど、北ドイツには、中世来のハンザ貿易で培った国際性、蓄えた豊かさがあった... 17世紀、北ドイツの音楽に触れていると、その国際性、豊かさを背景とする余裕のようなものが感じられ、それがまた自信となって響き出すよう。いや、17世紀、北ドイツ、侮れない!で、その後の中部ドイツ、バッハとは、またひと味違う感覚が興味深い...

という"Wenn ich nur Dich hab"、あなたさえいれば、を聴かせてくれたレッシュ。実直にして落ち着きを感じさせるそのテノールの歌声、印象的で... そこから、思い掛けなく瑞々しさが広がり、力強さも見せて、雄弁!正直、17世紀、北ドイツの教会音楽をテノール独唱で綴るって、地味過ぎじゃ?なんて思っていたのだけれど、アルバムのタイトル、あなたさえいれば、だなと... レッシュの頼もしさに、思わず、よろめきを覚えてしまいますよ... で、アンサンブル・ラ・シッラの透明感ある演奏が、その頼もしさを引き立て、聴き入ってしまう。

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