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11月18日、17世紀のオペラの集大成?盛期バロックを前にした魅力!パスクィーニの『イダルマ』。

アレッサンドロ・デ・マルキが芸術監督を務めるインスブルック古楽音楽祭、アリアンナ・ヴェンディテッリ(ソプラノ)のタイトルロールで、17世紀、ローマで活躍したパスクィーニのオペラ『イダルマ』。

ベルナルド・パスクィーニ(1637-1710)。
ピサとフィレンツェの中間にある小さな町、マッサ・エ・コッツィーレで生れ、隣町、ウッツァーノで音楽を学び始める。13歳の年、司祭だった叔父に連れられ、教皇領、フェッラーラに移り、才能を開花。16歳の年、かつてルッツァスキ、フレスコバルディも務めたアカデミア・デッラ・モルテのオルガニストになり、活躍。それから間もなく、聖都、ローマへ... 1664年、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂(ローマの重要な教会、四大バシリカの一角!)のオルガニストに就任。ボルゲーゼ家(教皇を輩出したローマの有力貴族... )に仕えながら、クリスティーナ女王(スウェーデン王位から退位後、カトリックに改宗、ローマに移住し、パトロンとして存在感を示した... )らの支援も受け、ローマならではの上質な音楽環境の中で活動...

というパスクィーニが、1680年、ローマ、カプラニカ劇場(ローマの貴族、カプラニカ家の邸宅に作られた私設の劇場で、1679年、パスクィーニのオペラ『愛はいずこ、苦しみはいずこ』で開場... 1695年には公開の劇場となる... )で上演した『イダルマ、あるいは忍耐する者が勝つ』。奔放な夫、リンドーロに振り回されながらも、夫を信じ、その愛を取り戻す妻、イダルマの奮闘を描く物語(忍耐する妻、という設定が、当時、ローマで人気だったとのこと... )。コミカルな場面もありつつの表情に富んだ音楽で織り成されたオペラは大成功!イタリア各地でも上演され、人気の演目に...

で、その音楽、盛期バロックの見栄を切るようなアリアが居並ぶ華麗なオペラからしたら、まさに過渡的な印象を受けるのだけれど、盛期バロックのオペラには失われてしまったオペラ誕生の理念、レチタール・カンタンド=語りながら歌う感覚がまだ生きていて... それでいて、盛期バロックの華麗なアリアが準備されてもいて、誕生以来のオペラの歩みが絶妙に総合されるような、独特の魅力を生み出し得ているところ、おもしろい!というより、卒の無いアリアと、思いの外、充実のレチタティーヴォが有機的に結ばれ、17世紀のオペラの集大成、聴かせるようで、魅了される!

という『イダルマ』を掘り起こす、アレッサンドロ・デ・マルキ。盛期バロック前夜のオペラの、繊細にして味わいあるサウンドを丁寧に捉え、ローマならではのアルカイックな雰囲気も活かし、3枚組の長丁場も、しっかりと魅了してくる!で、インスブルック古楽音楽祭管の演奏が、楚々としつつも着実に美しいのが印象的。その美しさに乗って、ナチュラルにドラマを展開する歌手陣の瑞々しいパフォーマンス!17世紀、ローマのオペラの充実っぷり、今に蘇らせる。

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