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8月27日、遅咲きクルターグ... 遅咲きが生んだマジックによるカフカ・ワールドが最高だった!

古楽から現代まで歌いこなすソプラノ、アンナ・プロハスカと、ピリオドもモダンもいけてしまうヴァイオリニスト、イザベル・ファウストによる、ハンガリー現代音楽界の人間国宝、クルターグの『カフカ断章』。

クルターグ・ジェルジュ(b.1926)。
ルーマニア、トランシルヴァニア地方(第一次大戦終戦まではハンガリー領... )、ルゴジュのハンガリー系の家に生れ、トランシルヴァニア地方の中心都市、ティミショアラで音楽を学び始める。第二次大戦後、ブダペストに移り、フランツ・リスト音楽院に入学(1946)。ヴェイネル(1885-1960)ら、バルトーク(1881-1945)が活躍していた頃からの大家について学ぶも、時代は冷戦真っ只中... 革新的な音楽が否定される東側、閉塞的な音楽環境に置かれたクルターグ。その後、パリで学ぶ(1957-58)機会を得るも、西側の同世代たちは、すでに才能を開花させ、大活躍中だった。

"ゲンダイオンガク"ど真ん中世代(同い年にフェルドマン、ひとつ上にブーレーズ、2つ上にノーノ、2つ下にシュトックハウゼン!)にして、黄金世代のひとりのはずが、遅咲きだったクルターグ... 西側のライヴァルたちが、戦後間もなく総音列の大波を起こすも、東側にいたクルターグは、その波に乗れなかった。いや、最前衛から遅れを取ったことで、戦後「前衛」の波に吞まれることなく、じっくりと独自の音楽世界を形成... イカニモな難解さとはひと味違う音楽世界... 遅咲きが生んだマジック!

さて、ここで聴く『カフカ断章』、20世紀音楽におけるクルターグの独特な立ち位置をより強く感じられるのか... 戦後「前衛」が構造疲労を起こして大分経った頃、1985年から翌年に掛けて作曲されたこの作品、カフカの死後に発見された日記、手紙などから、40の断片をクルターグが拾い、ソプラノとヴァイオリン用に作曲した歌曲集的な作品。が、どこか演劇的な要素を含み、『月に憑かれたピエロ』を思い起こす?

現代音楽なのだけれど、20世紀前半の表現主義へ還るような、ノスタルジックさも漂う『カフカ断章』。それが、絶妙にカフカ(1883-1924)の世界観と共鳴するようで、いや、ドンピシャ!何より、ソプラノとヴァイオリンという奇異な編成による音楽の異様さ... 異様だけれど、変に複雑になることは無く、なればこその冴えが、たまらない... 

で、冴えまくってます!プロハスカとファウスト!プロハスカの歌声は、自在に表情を刻んで、見事、カフカ・ワールドを鮮やかに歌い上げる!一方のファウストのヴァイオリンは、時に狂言回しのような表情を見せつつ、味わい深さも響かせ、カフカの仄暗い雰囲気、絶妙に醸し出す。いや、これは、最強コンビです。

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