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男性ゆえに経済強者な『何食べ』、レズビアンカップルに付きものな女性の貧困をリアルに描く『つくたべ』

 『きのう何食べた』(以下『何食べ』)のメインカップルは暮らしに余裕のある生活をおくり、『作りたい女と食べたい女』(以下『つくたべ』)のメインカップルは厳しい経済状態で生きている…という話が出回るようです。

 『何食べ』はカップルの生活を描くところから始まるのに対して、『つくたべ』はそもそも飯友みたいな関係なので、その両者を比較すること自体が不思議なのですが、それはさておき『何食べ』は社会から強いられている女性の貧困の存在を取りこぼしていて白けると一部で言われます。

 就いてる職業や収入金額については人それぞれに基準が大きく違うでしょうし、『何食べ』連載開始の2007年と『つくたべ』連載開始の2021年(個人発表としては2020年)とで社会情勢が同じとも言い難いですので、あくまで日常生活における経済面がどう描かれているのか見てみましょう。


 ではまず、一部で女性より収入が多くて余裕たっぷりの生活をおくっていると言われている『何食べ』です。

『きのう何食べた?』第1巻収録 第1話

 確かにこのあたりは中流階級ぐらいの感覚で描いているのでしょう。


『きのう何食べた?』第1巻収録 第1話
『きのう何食べた?』第1巻収録 第1話

 ただ、スーパーのはしごをしているように、その節約意識はとても強く、コンビニで買うことすら咎めています。


『きのう何食べた?』第9巻収録 第65話

 2013年初出の第65話でも相変わらず新聞のチラシチェックまでして価格比較しているようです。


『きのう何食べた?』第9巻収録 第65話

「ひ、ひと切れにほぼ340円!? ダメだとても手が出ない…!!」


『きのう何食べた?』第9巻収録 第67話

 そして、『何食べ』のカップルの住まいはこうなっています。実は、この住まいは、「2口コンロのキッチンをどうしても使いたい」という理由で、一人暮らしなのに借りていたという設定なのですが、そこに事故物件で安く借りられたというエピソードも付いています。


『きのう何食べた?』第9巻収録 第67話

 『何食べ』は2人で折半して家賃を支払っていると作中描写で説明されているものの、しばらくの間は一人暮らしで家賃10万円を払っていたという設定なので、そのあたりはリッチと言えばリッチです。



 では、レズビンカップル“特有の”貧困を描いた『つくたべ』を見てみましょう。ちなみに『つくたべ』は4巻までずっと飯友みたいな関係で、それ以上の共同生活的な描写はまったくありません。

『作りたい女と食べたい女』第2巻収録 第15話

 コンビニでフルーツサンドの材料調達。


『作りたい女と食べたい女』第3巻収録 第25話

 コンビニで寿司の材料調達。


『作りたい女と食べたい女』第3巻収録 第27話

 コンビニでラッシーの材料調達。


『作りたい女と食べたい女』第4巻収録 第35話

 コンビニでマシュマロとクラッカーの買い足し。


『作りたい女と食べたい女』第4巻収録 第36話

 コンビニで小倉トーストの材料調達。


 『つくたべ』は不思議なことに、妙に繰り返しコンビニに行きます。第36話は真夜中ではないと思われるのに行きます。

 もしかすると『つくたべ』の作中舞台のコンビニは一般のスーパーと値段が変わらないのかもしれません。とりあえず、実際に調べてみた記事があるので紹介しておきましょう。

 上記は2022年1月の記事ですが、これを見るに、少なくとも『つくたべ』は貧困を語る漫画ではないでしょう。むしろ思い立ったら無計画に食材を買い込みムダに作りすぎる『つくたべ』のほうが実は裕福なのではないかと疑ってしまうぐらいです。

『作りたい女と食べたい女』第1巻収録 第1話
『作りたい女と食べたい女』第1巻収録 第1話

 1番最初の第1話を振り返ると、スーパーには行くものの、完全なる気分転換目的で牛ブロック肉をご購入。

 さすがにあの後に「女の貧困!」と語るにはきついと判断したのか、ドラマ版では豚肉に改変されていました。

『作りたい女と食べたい女』第1巻収録 第6話

 第6話の上記の「今回はセーフ」から考えるに、それまで食材の値段にすらこだわらず作りすぎていた料理は毎回食べずに捨てていたと思われ、にも関わらず問題意識がないのは金銭的にまったく困ってないからなのでしょう。

『作りたい女と食べたい女』第2巻収録 第12話

 そもそも、『つくたべ』の登場人物の職業設定は娯楽フィクションにしても妙に不明確な部分が強く、春日十々子というキャラクターが何故大学を出ていながら非正規職に甘んじているのかも、一切説明されておりません。そのような作品で現実社会の問題を語るのは、いくらなんでも蛮勇かと思います。


『作りたい女と食べたい女』第4巻収録 第36話

 そういった感じで、『つくたべ』はどちらかと言えば裕福寄りの人物を何となく描いている漫画ですので、新居探しに出てくるのも3LDKです。上記の描写から部屋探しは難航しますが、当事者経営不動産屋なるところへ行った途端にあっさりと3LDKの新居を手に入れます。(単行本未収録の第39話~第40話。)



 ところで、以前「この人は創作におけるレズビアンの扱い方がわかっていない。『つくたべ』で勉強しなおすべき」などと叩かれた漫画家がいます。

 その漫画家の人が2019年~2023年に連載していた作品が、「大人百合」をお題とした『おとなになっても』です。ちなみに完結済みです。

 そんな『おとなになっても』ですが、第8巻収録の第36話~第37話にてメインカップルの新居探しからの同棲開始を描いています。(初出は2022年6月、7月発売の雑誌『Kiss』。)

『おとなになっても』第8巻収録 第36話
『おとなになっても』第8巻収録 第36話

 この漫画は、この次の「もう一軒」で“不動産屋ガチャ”に成功してあっさりと決まる流れです。ちなみに小学校教諭と美容師の2人という職業設定。電車で通勤している描写があるので、おそらくどちらも車は所有していないと思われます。

『おとなになっても』第8巻収録 第37話

 そんなこんなで、同棲開始の新居間取りがこんなでした。やはり小学校教諭と美容師の2人では非正規2人である『つくたべ』のような3LDKにはたどり着くことはできませんね…って、あれ?????


『きのう何食べた?』 著者:よしながふみ 2007年連載開始

『作りたい女と食べたい女』 著者:ゆざきさかおみ 2021年連載開始(個人発表は2020年)

『おとなになっても』 著者:志村貴子 2019年連載開始、2023年完結

サムネイル用イラスト


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