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『翼をください』という歌がある。その昔、赤い鳥がさえずり、願った。歌は神様への懇願のようであり、その実、叶わぬ夢の現実に夢想を馳せる憧憬。

 その昔、たしかに翼がほしいと思った。高所が苦手なのになぜそのように思ったか。
 それは宙を舞うためではなく、遠くに行くために。 

 人力を補助し、制御をAIに任せられる現代のテクノロジーなら、グライダーで距離を稼ぐ『鳥人』とは違って、自力で舞い上がることも可能になろう。
 だけど、その昔だった当時、テクノロジーはまだ未熟で、両腕を広げても翼は空想上の世界にしか現れなかった。

 空飛ぶ翼はどこにも売っていなかったから、少年は仕方なくオートバイを買った。買って、乗って、気づいたことがある。オートバイは、カタチこそ違えど翼だったのだ。
 
 あれから大河のような月日が流れた。
 
 今まで翼を手放せずにきた。埃を被ってガレージという止まり木にじっと、その昔のオートバイが佇んでいる。今でもそいつは、現実に舞い降りた地上の翼。いつでも、好きな時に、雨が降れば濡れるし、夏暑く冬寒いけど、どこにでも行ける翼であり続けている。

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