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予知能力。

 今日は傘のイメージが浮かんだ。晴れているし、予報も心配ないと言ったけど、念の為の折り畳み。その一瞬のお告げのような閃きが功を奏することがある。

「その力、予知能力」とその人は言った。

 信号のない交差点を通過する時、車の影からジャジャジャジャーンと『ひょっこり男』が現れるやもしれぬ。そんな直感が降りてきて、だから横断歩道手前で止まれるほどまでスピードを落としてみたんだよ。するとどうだろう、そこに現物が現れた。

 驚かないこちらの反応に、ひょっこり男はおもしろくない。不貞腐れてそっぽを向き、中指立てて漕ぎ去った。

 ひょっこり男のやり方は、いつだってワンパターン。それでも毎回うまくいってたものだから、図にのってたんだね。よもやあらかじめ回避行動を取られているとは思わなんだ。
 しかもひょっこり男は浅知恵である。驚かせたあとのことまで考えることができていなかった。よもやほぼ全車に標準装備されるようになったドライブレコーダーの数々がぐるり全方位から監視できるようになってたことにまで気が回らなかった。ドライブレコーダーの映像をつないでいったら、ご丁寧に、まるで本人が連れていってくれたみたいにして自宅が突き止められちゃった。

「男はすぐに逮捕されると思っていたよ」とその人は言った。おまけに「世間にひょっこり男なるものが現れるということもね」とも。

『それも予知能力?』尋ねると、あたかも雨が降れば濡れるものだというように「まあね」と答えられた。
 
 悪いことをすれば天罰があたる。その人はそう言っていた。口にしたわけじゃない。その人は心の中でそう呟いたのだ。ぼくの予知能力が、その人の言いたかったことをとらえていた。

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