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うまい儲け話考。

 人はお金に弱い。自給自足でもない限り、お金が命の生命線になっている世間を渡るには、過不足のないお金が必要になるのだから仕方ない。なかには騙してまで大儲けを企む不届者もいるけれど、儲けた悪知恵物の伸ばした触手の向こうには、騙されて泣く財を失くした者が大勢出る。犬に噛まれたでは済まない悲劇が刻まれることを思うと、胸が痛む。
 不幸な人を出さないい生き方を歩めばいいのに、悪知恵者の欲望は飽くなき追求道を突っ走るようで、貯め込む額の大きさにはただただ驚くばかりだ。百数十億円にのぼるまで貯め込んで、いったい何にお金を使うおつもりだったのだろう。使い切れる金額だとはとうてい思われないんですけど。
 結局は勧善懲悪、使う前に捕まえられたわけだけれどもね。取り押さえられた人物のところに貯められたお金は、さて、持ち主のところに返却されていくのだろうか? 他人事ながら余計なお節介が顔を出す。

 あのような事件が起きると、人は足るを知る生き方を選んだほうがよさそうだという思いがますます強くなる。厄介なのは、足るを知るとは、欲望を抑えた生き方だということ。欲望はいつだってちろちろ「あれ欲しい、これ欲しい」の炎を燃やしつづける消すに消せぬ命の一部みたいなものだから、強風に煽られればばっと燃え上がることがある。そうなると一大事。人は欲望の坂道を、まっしぐらに下りはじめる。一度堰を切ると、歯止めが効かない。自制心でブレーキを踏めばいいのに、故意か不可抗力か、アクセルを踏んじゃうことがある。

 真っ当に稼いでいくのがいちばん。渡る世間に「儲かりまっせ」の口車は数あれど、いちど乗ったら欲望の下り坂が待っている。うまい儲け話には乗ってはいけないとさんざん言われてきたけれど、うるさがってはいけないものだからめんどくさい。でも、なかには耳にタコができたと先達の教えに背き、口車に乗ってしまう人がいる。彼らは、詐欺師にしてみれば入れ食い状態の、欲望に目をぎらつかせたまな板の上の鯉。

 もちろん合法的な一攫千金法というものもある。一部の人は大金を手にできるかもしれないけれど、それはごく一部で、針の穴を通すくらい難しい。その他は針の穴を通せずに「お疲れさまでしたあ」のひと言で片づけられてしまうから悲しい。
 かつて興隆したアフィリエイトは、空いた時間にできる副業として参加者を広げたけれども、蓋を開けてみれば大半の人がいいように使われお金はいっさい入ってこなかったし、一攫千金も夢じゃないと欲望に油を注いだFXに生活費ごと情熱を燃やし切った人もいた。合法的儲け話の口車に乗った人たちは、年末の大掃除でエアコンのフィルターにこびりついた埃みたいに、世間の流れる時間に洗われるようにして消えていった。

 痛い目をたくさん見てきたはずなのに、人はお金が儲かると聞けば好奇の心をリセットしてムクと起こし直す。新手の儲け話に「今度こそ」と期待をつなぐ。社会という世界の内側に生きる懲りない面々のサガである。

 昨今話題にのぼったものでいえば、すでにピークを極めた感はあるものの、「YouTuberに俺はなる!」という選択肢。とうに短い花の時期は過ぎたせいか、現実が少しずつ見えてきて、火傷を嫌う欲望者は傍観しはじめたように思うが、どうだろう? 「海賊王に俺はなる!」が口癖だったルフィと違って決意は固くなく、「やれば儲かる」的な安直な気持ちではじめたYouTuberは、1年で8割以上が消えていくという。たいした心血も注いでいないのに、大金持ちを夢みた夢想家の悲しい末路ということか。

 消えていったYouTuberは、狼煙のようにたちのぼった夢を、空の青に溶かしてしまった。幻想にはじまって幻想で終わればなんら痛手はないものの、彼らはYouTuberになるために、最初に金銭的、時間的な投資をしてしまった。彼らは1年なりのそこそこの期間を費やして、映像制作に取り組まなけれなならなかったから初期投資はやむを得なかった。時間も割かねばならなかったし、知恵も絞らなければならなかった。GoPro購入も必然だったし、編集機材だってそこそこのものをそろえなければ見栄えよく仕上げることができなかった。安直にはじめても、必要最小限の出費とはいえ重くのしかかってきたはずである。

 残った2割の勝ち組だってうかうかしてはいられないと、あるYouTuberがアップした動画の中で語っていた。創業者利益ではないけれど、アイデア勝負で立ち上げた新機軸のテーマが当たって波に乗り、いっときは大儲けできてはいたが、真似するヤツが次から次へと現れて、人気を砂の城を崩されるみたいにして奪い取られていったそう。
「今では最盛期の半分しか収益が上がらないっすよ」とそのYouTuberはぼやくように締めくくっていた。
 現実は厳しく、それでもYouTuberとして名誉の継続を試みるか、利が薄くなればそれを機に撤退か。

 そういえば、ペット関連でも人気の波が揺らいでいたっけ。少し前までしゃべる黒があちらこちらで取り沙汰されていたけれど、今では下僕を飼うスコティッシュに人気が移りつつある。しかもマーチャンダイジング展開で商品化を実現し儲けを多角化。利益のからくりはこのようにして蠢きながら変化しているのね。

 YouTuberもたいへんだ。
 それでも、みなさん頑張っていらっしゃる。全国のラーメン店数が、新規オープンと撤退組がせめぎ合い、3万店程度で高止まりしているけど、きっとYouTuberも同じような推移をしているんじゃないのかな。人気YouTuberがある一定数に達したら、高値安定で自然淘汰がはじまる、といったような。だって、視聴者のほうだって今や高止まりしているのでしょう? ならYouTuberが増えても、増加した分だけ減っても不思議じゃない。不思議なのは、新規YouTuberが8割消えても、毎年同じ数だけ参入しようとする猛者が絶えないことなんだな。
 儲けの可能性2割に賭けて果敢な挑戦。毎年レベルが上がっているだろうから、これからの戦いはきっと熾烈になっていくのだろうね。
 見る側としてはクオリティアップは嬉しいかぎりだけど。

 どんなに人気を博しても、時間は流れ、時代は移り変わっていく。いずれ新旧交代劇が起こる。これまで繰り返されてきたのと同じにね。

 さてお次にくる一攫千金の儲け話は何?

 え、わたくし自身はどうかですって?
 そうね、資材にかける資金も技術を磨こうとする根性もないから、YouTubeに限らず傍観者継続と決めているですよ。背伸びしても転けるだけだとわきまえているから、自分を宥めながら幸せを感じられる時間を増やすことに重きを置こうかな、などとね。
 貧乏暇なしと言うけれど、貧乏に一攫千金もありません。だけど、積み重ねていくことで出来上がる価値というものってプライスレスでいいなと思ってる次第でして。
 noteで創作していくことで、ひょんなことから、という淡い期待は持っちゃあいますよ、そりゃあ。それでも欲望はぎらつかせない、ぎらつかない。とにかく今は『書く』と『描く』をせっせとためる、に専念。
 旅行も計画している時がいちばん楽しい。ゴールに向かう途中っていつだって花道で、マラソンはじめ苦しさを伴うものもあるけれど、それでも幸せと喜びが並走してくれるものだから。

【うまい話には艱難辛苦がもれなくついてくる。ご用心。】

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