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トレース。

 お手本はいく通りもあった。
「おぎゃあ」と生まれ出でたる時すでに、魂惑わす歌い手も、財に胡座をかくようになる成り上がりも、その身を捧げ人柱となった英雄もいた。しかも、おそらく、無数に。

 私らはそれら偉人印の先人を示され、自由意志で選び、憧れてきた。

「だから歌手になりたい」
「命を助ける仕事につきたい」
「豪邸に住める身分に」
「海賊王に俺はなる」

 各様に未来を描き、お手本を見定めて自身をトレースし始める。


 筆致巧みに鮮やかに、自分を描いていく。

 人生の筆に、絵心音痴はいない。誰もが一人ずつ、自身が認める名画伯。

 出過ぎたっていい。やりすぎ、描きすぎもOK。基本さえ押さえておけば、応用は没個性からの脱皮。人それぞれで、誰かのお手本に向かえばよい。

 

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