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ひこうきぐも。

 母というものは、我が子を手塩にかけて育てこそすれ、手にかけるなんてこと、微塵も考えることはないものだと思っていた。内密出産にしろ、裕福な家庭にこっそり託す捨て子にしろ、生きてほしいと願う母心が子の命をつなぐ。

 なのに、まさか。同情を得るために手にかけた、とニュースは言った。この目で確かめたわけではないけれど、おそらく本当のことなのだろう。

 幼い命が空にひと筋の雲となって流れると、多くの人が悲しむ。悼んでも悼みきれないほど心を痛める。

 もし世界にコウノトリ一括管理センターなるものがあって、そこの所長に任命されたなら、赤ん坊の割り振りをいったん停止してしまいそうなほど、衝撃的な事件だった。

 かつて、事件に巻き込まれて母親を失くした子どもの、大人になってからの回想シーンを未発表の作品の中で描いたことがある。ユーミンは天に召される子の命を飛行機雲になぞらえ、その歌詞をたどりながら、焼かれ煙となって雲に溶けていく母の姿を幼い少年がただただ受け止める、という描写だった。
 経験値が足りないうちは、ただただ受け止めるしかない。そして、ごく稀に受け止めきれなくなって命の炎が消える。イヤな事件だ。冥福を祈るとともに、反面教師として社会に刻まれることを願う。

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