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夢庫。

 目を閉じると瞼の裏の暗闇に扉がひとつ付いていて、重なるみたいにして焦点が合えば、取手に手を伸ばし、意志を指先に伝えてノブをまわす。扉は音もなく手前に開き、その向こうに景色が広がる。
 景色は一つばかりじゃない。いくつも多重に、そしてつながりながら一枚絵巻が広がってる。
 それは、過去に見た夢の貯蔵庫。
「これって?」
『夢庫』
「夢庫?」
『忘れ去られる宿命の夢のお墓みたいなもの』
「お墓?」
『忘れ去られて行き場を失くした魂を弔う場所であり、ときどき、そうねだいたい1年に一度のペースで思い出してもらうための記憶の交差点みたいなもの』
「交差点?」
『接点をつくっておかないと、風化してしまいに消えていくでしょう? だから記憶に通電してあげるわけ』
「通電?」
『人は、人ばかりとは限らないけど、意識のある生き物は電気で動くものだから。信号にだって電気は通っているしね』
「私たちは、電動だって言いたいの?」
『そうだよ。それの何が不満なの?』
「不満というのじゃなく、あまりに荒唐無稽なことだから。もしそれが現実のことだとしたらだけどね」
『現実だよ。試しにコンセントを抜いてあげようか。君も他の人と同様、止まってしまうから』
「私が、止まる?」
『そう。掃除機は守備範囲w越えるとコンセントが外れてしまうでしょう? それと同じ』
「掃除機と同じ?」
『そう。君たちは電力を供給され続けていないと、稼働できないようになっているんだ』
「またまた。いったい何の冗談なんだい?」
『冗談なんかじゃないよ。本当のことなんだ』

 夢はいつだって非現実な事象を当たり前の顔をして正当化してくる。夢の最中にあっては疑問を挟む余地はない。覚めて初めて「あれは起こりうるはずもない非現実的な展開だったな」と振り返ることになる。

 目を閉じると瞼の裏の暗闇に扉がひとつ付いていて、重なるみたいにして焦点が合えば、取手に手を伸ばし、意志を指先に伝えてノブをまわす。扉は音もなく手前に開き、その向こうに景色が広がる。
 扉の向こうの夢倉庫。入ったすぐの右手の壁を確かめてみるといい。そこにはオン・オフのスイッチが付いている。

『君が扉を開けた時にはスイッチはオンになってるよ。電気を消してはいけない。通電が途切れると、そのスイッチは二度と見つからなくなる』

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