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だから?

 背伸びして、垣根の上から覗き見て、光るものあれば希望の明るみ。身をかがめすくませてみれば、たちまち影が胸を撫でていく。

 立ち止まっても前方から押し寄せてくる明るみは未来で、立ち止まった時に背後から襲いくる影は過去。

 わたしは過去と未来の独楽紐に、翻弄されながら回る。


 ジュラも白亜も江戸も明治も、書物の中に閉じ込められた。過ぎた時間は鍵かけられてゼラチン状に固まって、たまに扉を開いて人差し指でつついてみれば、ほのかに透けた事柄の亡骸が乳房のようにぶるんと身ぶるい、『1/fゆらぎ』で揺れて、脳波に届いて共鳴し、刻まれた記録の柵を溶かして見せる。過去が現在に溶け入り、今が息を止め亡骸が闊歩し始める。死んだ時間に身を浸すとは、そういうこと。
 
 今このときも、ちょっと先の未来も、そのまた先で待ち受けるしばらく先の将来も、追いついて追い越せば、思い出色に染まっていく。だけど色はおぼろげで、刻まれない限り思い出として扱われることはない。それでもわたしが刻む大概は、書物に刻まれることはない。
 だから。
 
 だから?

【人生は独楽のごとく回し回され】

 やはりわたしは踊らされている。

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