とまこ

田舎にて三十路がエッセイを配信中。

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    どたばたブラック企業ノンフィクション!全て読み切り、短編。

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オーマイオフィス 〜フェロモン事件〜

「とまこ、冷えた茶を頼む。」 乳首の透けたYシャツのボタンを、3つも4つもプチプチと開けながら、代表は茶を要求した。 比較的上下関係がなく、風遠しの良いweb業界で生きてきた私にとって、当然のようにお茶出しを頼まれることは、今思えば新鮮だったかもしれない。 「今日はこの部屋、そんなに暑くないな。」 冷房のない経理室を覗き込んで、すっとぼけたように言い、彼は二階の社長室へ消えた。 自分だけ冷房の効いた涼しい部屋で、 利益をプールして、 冷えた茶だと?

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    • パンツを穿いた木

      • オーマイオフィス ~支配からの事件~

        「当分クーラーは付けられないみたいなんで、 なんとか頭を使って工夫してやってくださいね」 その言葉通り、私はその日のうちに午後在宅作業という形で、ストライキを行使した。 この期に及んでも人の好い私は、あくまで了承を得る必要があると思い、代表に連絡を取ったが、 「仕方がないので当分そうしてくれるか、よろしくっ!」 爽快な快諾が地球の裏側から返ってきただけであった。 自分が午後オフィスを空けるということは、 まず、電話番がいなくなり、急な来客に対応する者がいなくなり、次

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        • オーマイオフィス 〜ストライキ事件〜

          「おはようございまあす…」 社内を騒がせた熱中症事件から一夜明け、微熱を押して出勤。 また暑い部屋で働くと思うと、本当に嫌で嫌で仕方なかった。作業道具などを持って涼しい部屋へ移動するなどして、社内ノマドとして作業をしようと考えていた。 心配をかけて専務をも動したことには多少気まずい想いを感じていたが、皆は予想以上に私の身を心配して迎えてくれた。 しかし、その顔は心配というよりも、それ以上に、エアコンも設置しない会社に対しての衝撃の余韻が大きいようであった。 「これでもエ

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        オーマイオフィス 〜フェロモン事件〜

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        • オーマイオフィス
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          オーマイオフィス ~熱中症事件~

          急に呼吸が苦しくなったのは、月曜日のことであった。 朝、出社すると、私の仕事部屋は、いつにも増して熱がこもり、「もわっ」としていた。 週末の間に、建物ごとかなり温まったらしい。 まあ、なんとかなるさ。(ハクナマタタ) エアコンがないもんで、やれやれと扇風機を起動させ、いつものようにめんどうくさい作業にあたった。 いつもと変わらない、経営難だが平和な一日が始まるはずだった。 11時を過ぎた頃、私はふと、息苦しさを感じた。 なんだか頭痛もするし、気のせいか吐き気もおぼえる

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          オーマイオフィス ~熱中症事件~

          オーマイオフィス ~退職事件~

          七月末日を以って嫌われ者の営業が去った。 げに千の負の遺産を残して。 直前に女性社員がカレンダーを見て、 「げえっ!あいつの最終日って、あなたがいない日じゃないっ!!」と気付いた。 それによって幸いにも私は花束を渡す役を免れたのである。 その後、わたしの代わりに誰が花束をあげるかを決めるジャンケン大会が開かれた。 皮肉にも発起人の女性社員がジャンケンに負け、嫌悪を叫びながら皆のところを廻り、花束代を徴収していたまさにそのとき。 なぜか、五十歳の新人も全く同様に花束代の徴

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          オーマイオフィス ~退職事件~

          オーマイオフィス ~交渉事件~

          おかしな相談を持ちかけられたのは、昨日の定時後、さあおうちへ帰ろうというまさに最高のタイミングであった。 「とまこ、カフェのカウンターに立つ気はないか。」 ありません。 そう言うと角が立つと思い、 「それは今の業務と並行で対応するという意味でしょうか、だとすると難しいです」と回答。 ちょうど今から一年前。 うちの代表から電話がかかってきて、人手が足りないのでうちの会社を手伝ってくれないかと頼まれた。 初めての面談で彼は、およそ二時間もまちづくりの夢と情熱を語っていた。

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          オーマイオフィス ~交渉事件~

          オーマイオフィス ~鎖国令発布事件~

          「代表のあれは、もう病気ね。」 女性社員は仕事する手を止め、諦観を以て静かに言った。 瞳は宙を見つめている。何かを悟った様に。 今日は、静かな日だ。 月末で決算を控えているのもあり、営業たちは外回りに忙しい。加えて、代表は出張中、寄生虫はおやすみ。社内には金曜の宴会に参加した人間しかいない。 「病気というのはつまり?」 人がいないのを良いことに、私は声のした隣の部屋を覗いた。 病気に関しては、思い当たる節がありすぎて絞込みは困難であった。 だが、彼女が精神的な病の

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          オーマイオフィス ~鎖国令発布事件~

          オーマイオフィス ~ブラジル事件~

          波乱万丈な人生を送ってきた。 何度となく未来に絶望しそうになった。 だが、そういうとき一瞬だけ未来を展望し、立ち止まることができれば、絶望には続きがあり、いつのまにか何事もなかったかのように、日常が再び訪れるということに気づける。 そして、絶望は忘却することができる。 だから今夜の宴会の悪夢も、きっとすぐに忘却する。 今夜の宴会の首謀者は、毎日正午に出勤してお昼休憩をはさみ、PC前で昼寝という名の仕事をしたのち16時前には退社するだけで月に27万円をもらっている代表の幼馴

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          オーマイオフィス ~ブラジル事件~

          秋開催イベント用に提案したイメージキャラ。子供がこわがるという理由で不採用に…。

          秋開催イベント用に提案したイメージキャラ。子供がこわがるという理由で不採用に…。

          オーマイオフィス ~滞納事件~

          「ちょっとお、もしもし~?」 電話のおんなの人は、最初からむすっとしていた。 クレームの電話かと思った私は、なぜか、条件反射でメモを用意し、背筋を伸ばして戦闘に備えた。 油断してはならない。相手は怒れる年上の女性なのだ。 「こんにちは。お客さまはどちら様でしょうか?」 朗らかにスタートを切ったのも束の間、向こうは早速声を荒げた。 「私です!子会社のSです!」 身内だった。 いつもお世話になっております、と慌てて挨拶したが、それどころではなかった。 「ちょっと

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          オーマイオフィス ~滞納事件~

          職場の日常を、「どたばたブラック企業ノンフィクション」として配信しています!思わずにやりとしてしまったら、投げ銭をお願いします。

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          オーマイオフィス ~失楽園事件~

          「今日から営業の後任で入ったIさんだ。みんなよろしくっ!」 その新人さんは、突然やってきた。 「彼女はわたしの同級生ですので!」 およそ五十歳であることが無神経にも大々的に発表されると、気まずそうに簡単な挨拶を済ませて、彼女は代表と出かけた。 私はもう随分前から、代表が常々醸し出す、年季を帯びた色情の類が大嫌いであったが、此度の熟女の登場に関しても、「へんなカンジ」を拭えそうになかった。 あのひとは、どういう経緯でうちにきたんですか? 聞き込みしたけれど、さあ知ら

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          オーマイオフィス ~餞別事件~

          「ねえ、いくら出せる?」 女性社員が扉の影から声を潜めて尋ねた。 事情を聞かずとも、また面倒なことが起きたと私は悟った。 「何がですか…?」 訝しげな私の表情を見て、女性社員がぷっと笑い、そんなに構えることではないから安心して、と言った。 「営業のあいつの最終出勤日、最大でも花束は贈らなきゃいけないかなと思ってね」 彼女は提案した。 「最大でも花束」という日本語を、私は初めて耳にした。 解説するまでもないが、 「最低でも」の反義みたいなもんである。マックス歩み寄っ

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          オーマイオフィス ~反撃事件~

          先日、嫌われ者の営業に、ちょっと手伝ってほしいことがあると上の階に呼び出された。 上がっていくと、山積みになった段ボールを指さし、 「自分のミスで、3000枚のDVDの印字に誤表記が生じました。 ここに正誤表のシールがあるんで、一枚ずつDVDに封入する作業をお願いしたい」 と言われた。 さんぜんまい。 膨大な枚数を、よくも偉そうな態度でしれっと口にしたものだ。 私はまず、1000枚という数字を脳内で時給と割り算したのち、受け入れて手伝うことにした。 テーブルを持ってき

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          オーマイオフィス ~サウナ事件~

          連日30度を超える夏日の中、会社では私の部屋にだけ冷房がない。 正確には、部屋にはクーラーが設置してあるが、故障していて稼働しない。 かつて、地元病院の女傑迫害に耐えられず亡命、いや退職してからというもの、書店で一年半バイト勤務していたが、そこにも冷房がなかった。 「冷房がない本屋なんて聞いたことないぞ!」 「やる気あるのか!」 「立ち読みもできない!」 客から幾多の罵声を浴びたことも、今では懐かしい。 一度は耐え兼ね、「あたしだって暑いんだ!」と言い返したところ、びっ

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