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いつかの朝、銭湯

夜行バスに揺られて
目を覚ますと
そこは見知らぬ街の朝

ぼーっとした頭で
ベンチに座る

うーん..汗かいちゃった
温泉ないかな

調べると、
徒歩10分のところに銭湯があった

しかもあと30分で開店
こんな早くからしてくれているなんて..

荷物を転がしながら
目的地に向かう

たどり着いたのは、
昭和のはじめからあるのかな?
と思うくらいにレトロな古い銭湯

その古さに味がでるほど
大切に扱われてきたことが
分かるような子綺麗さ

紺色の暖簾をくぐる

木の下駄箱の匂いがした
どことなく硫黄の匂いもする

券売機で大人の券を買って
奥に進む

わぁ

番台とそこに座る人を
はじめて見て嬉しくなる

いらっしゃい。

はじけるような優しい笑顔で
出迎えてくれたおばあちゃん

更衣室に進むと
曇りガラスから差し込む光と
扇風機のやさしい風が
出迎えてくれた

ガラガラ
誰もいない温泉の扉をあける

静かにモクモクとした湯気と
硫黄の匂いだけが漂っていた

シャワーで汗を流す
石鹸の香りがふわりと身体を包む

朝の光に
シャワーのお湯が
キラキラとしている

伸びてきた髪を結う

生まれてこのかた
ずっとショートだったから
なんだか変な感じだ

いちばんぬるそうな湯船にはいる

それでも家で入る時より
熱い気がする

バスに揺られてかたまった
身体がほぐされていく

気持ちいい

ぶらりとした旅の醍醐味は
こんな出会いがあること

水風呂とさらに熱い湯船を
いったりきたりしながら
朝の湯船を楽しむ

すっかり温まって
脱衣所でゆっくり過ごす
扇風機の風が心地いい

心も身体も洗われて
女湯をでると
ガラスケースにあった
この土地のコーヒー牛乳を飲んでみた

美味しい
しあわせ

この時のために生きている

そういいきれるほど
いいお湯だった

あの朝のことを思い出し、
今日は温泉に行こうと決めた


写真 Yukitaka Sawamatsuさま