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海のロンド

30分ぐらいだと思っていた。
思い込みで人を殺してしまったことで、忘れられない思い出ができた。とでも言いたげな姿勢。岩に張りついた苔のようにも見える。

男は慎重に身を屈め、身を映す、海。

驚きを隠せなかった人々は、白い波で埋め尽くされた航海によって、行き着いた場所を発見していた。死体が、口を大きくみせてそれを物語っていた。熟れているのは風が強いからで、雪崩れというのは海に向かうものです。待っています。

それから30分、男は聞いていた

「ヤーレンソーラン」

一同に鬨をつくる闇夜が歌い、おいそれと囲む

それから、断りを入れにきた乳母とロンド。いつものように「説明は難しいけど、僕が海から出て思ったのは陸のことではなかった。確かに、君ではなかった」と言い、灘の険しさを語る。

見渡してみると、聞かれもしない溜息に疲れたという様な表情で、乳母の肩に隠れようとしている海。ロンドは、権利が持っている片方の手を離すつもりがなかった。硬く結ばれた紐を緩めるための、隙間。過ちのようなコトワリ。静かに息をしている彼らの声が、ロンドには聞こえる。

乳母の肩を掴み「30分狙われるぐらいどうってことないだろ」と、自分に問いかける。反駁、と覚えたのは、答えることで簡単になってしまう関係性を、誰の目にも留まる風景として描いていたからだった。死体はそのままにしておいても、命は繰り返すことがない。そんな安心感から、期待を裏切るロンドを歌う。

「そろそろ来ないかな」

誤魔化すのに疲れていたのは彼だけではなかった。

「誰だって最後を願っているもんだよ」

波に揺れている月が目を暗くし、ロンドを返した。

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