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読書感想文 ミーツ・ザ・ワールド

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル ミーツ・ザ・ワールド
作者   金原ひとみ
出版社  集英社

あらすじ

27才の銀行員由嘉里は、合コン帰りに気分が悪くなっているところをキャバ嬢ライに助けられる。ライの美しさが羨ましい由嘉里に、ライは300万上げるから私になればいいと言う。
ライは自分は死ぬから300万はいらないと言うのだが……
ライの汚部屋を掃除して同居しだした由嘉里は、ライに死んでほしくないと思う。ライの友人ホストのアサヒ、アサヒのミューズユキ、バーのママおしん、新宿で生きる人々は今まで由嘉里が出会ったことのない人たちで、その考え方に影響を受ける由嘉里は、自分が腐女子であることに自信を持ち始める。

恋愛するとは? 生きるとは?
ちょっとコミカル、優しさを感じながら、爽やかに読了できる作品です。

感想

どうしたって死にたい人。死んでいることが自然だと感じる人。
そんな人が傍に居て、その人に死んでほしくないと感じればどうすればよいのだろう? どんなことができるのだろう?

心から死にたい人を止める術などあるのだろうか?

恋愛ってなんなのだろう? 
一緒にいて楽しいとか、傍にいたいとか、話が合うとか、悲しい時に慰めてくれるとか、抱きしめて欲しい時に抱きしめてくれるとか、とにかく生きていて欲しいとか、そう感じることが恋愛なのか?
恋愛ならセックスぬきには考えられないか?
いや、愛なしのセックスなど、ごまんとある。
友情や、親子の愛とどう違うんだ?

生きる為には、誰かが必要なのか。
生きる意味を求めて人との出会いを実験しながら生きているようなライ。
出会いと別れを繰り返しながら、やはり自分には生きる意味などないと思ってしまったのか? そうライに思われてしまった周りの人間は、単なる実験材料だったのか? いや、そんな風に感じる彼だから、ダメだったのか?

などとね、色々感じながら読むことのできる作品で、やさしさや、暖かさを感じます。

それに、コミカル。
ホストのアサヒはとても魅力的なキャラで好きだなあ。仲良くなりたい。ああ、もう、アサヒのひとたらしにたらされた感があるなあ。
こんな人が傍に居て、好きにならないだろうか? そこはちょっと疑問だったりもする。が、そうじゃないから面白いのだろう。

ライと出会う前の由嘉里の中にライという存在はいない。
ライの存在する由嘉里という人間だからこそ、アサヒやユキやおしんに大切にしてもらっているともいえる。
そんな風に考えると、変化した由嘉里の人生は由嘉里だけのものではあって、由嘉里だけのものではない気がする。人は人に影響を受けながら、そして逆に影響を与えながら生きているんですものね。
それなら、今目の前にいなくてもその人の存在を自分の中に持ち続けていられるなら、相手の生死なんて関係ないと思えばよいのでは?
でも、会えなくてもどこかで生きていて欲しいと願ってしまうのも人間なのよね。

人間の生き方の多様性が認められつつある世界です。
それは良い事だと思うし、生きづらいと感じる人が減ればいいなあと思います。
でも、だからといって良妻賢母を否定することないとは思ってしまう私は、古い女なのでしょうか? 
良妻賢母も多様な生き方の中の一つと思えば、否定される生き方ではないでしょう。
懸命に娘に愛していると告げる母と、それを白けた感じで聞いている由嘉里の姿に、なんだか母の悲哀というか、これこそ究極の片思いだなあと感じてしまいました。
まあ、属性が違うとたしかに分かり合えないでしょう。
でも、何もせずにほおっておけば死んでしまう小さな命を、一人でも死なない年まで育ててきたのだって思うと、お母さんがどこか可哀そうでにも感じます。

親から子への、言語道断の暴力、まあ、肉体的にも精神的にも、命にかかわる暴力は絶対ダメです。
でも、価値観の違う親の言葉に傷ついたという程度の経験は、世の中の様々な価値観の違う人との関りあいを無難にこなす練習になっている気がするんですけれどね。

話が変な方向に行っちゃったけれど、お母さんが由嘉里にずっと片思いであるように、由嘉里もライにずっと片思いって感じなんでしょうね。

色々な価値観の人間が、色々な仕事をして、色々に生きている。
コミカルでクスっと笑えるシーンも満載で、ほっこりする楽しいお話でした。

でも、いっつも思う。
お酒の飲めない私は、人生の楽しみのかなりの部分を失くしている気がする。
登場人物は、楽しくても悲しくてもお酒を飲んでいるんだよ。美味しいもの食べながら、お酒も楽しむんだ。いいなあ。
ああ、お酒の飲める体質だったらもっと理解できたのになあって思うととても悔しい。

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