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読書感想文 トリカゴ

ネタバレ、あらすじありの読書感想文です。

タイトル トリカゴ
作者   辻堂ゆめ
出版社  東京創元社

第24回大藪春彦賞受賞作品

あらすじ

二十四年前、母親に虐待された幼い兄妹が保護された。鳥と一緒に生活をして言葉も話せない兄妹は雑誌で話題になった。「鳥籠事件」と言われるその事件は、その後保護された兄妹が施設から誘拐されるという不可解な事件となり、現在も解決していない。
森垣里穂子は一歳の娘とプログラマーの夫のいる31才の刑事だ。殺人未遂事件の犯人として逮捕した女性ハナは、犯行を自白した。単純な事件だと思った里穂子だが、ハナは無戸籍の上、自白を翻して釈放された。
ハナを尾行した里穂子は、無戸籍の人間ばかりが暮らす「ユートピア」と名付けられたコミュニティを見つける。彼らは食品会社で働きながら共同生活をしていた。
そこで出会ったハナの兄リョウとハナは、二十四年前に「ユートピア」の人間に見つけられた捨て子だという。彼らが「鳥籠事件」の被害者ではないかと感じた里穂子は「鳥籠事件」捜査していた特命の羽山と捜査を始めた。

誘拐犯は「ユートピア」の中にいるのか? ハナは殺人未遂の真犯人ではないのか? ハナとリョウは、鳥籠事件の被害者だったのか?
当時の施設の担当者や、兄妹を虐待した実母と二人を面会させ、真実を追い求める里穂子と羽山だが……
鳥籠事件の真犯人は意外な人物だった。

感想

何だかなあ……とにかく、違和感のある物語です。
そんなことある?って感じちゃって。

まず、コミュニティ。
リョウをリーダーとする小さな国家のような無戸籍者のコミュニティ。住人はリョウに洗脳されたように、規則を守って真面目に働き、贅沢しません。過去に、歓楽街で働き、恋人に暴力をふるっていたような人間も混じっています。住人たちは様々な修羅場をくぐりぬけている大人です。ハナは外に恋人作ったりしているのに、若い男は歓楽街に行きもしないの? リョウにカリスマ性があるといっても、どうやって洗脳したの? 自由に外出ができ、給料も貰っている大人が、何をきっかけにこのコミュニティをユートピアだと思えたのか?

コミュニティの存在を秘密にして、見て見ぬふりをしている刑事にも違和感。無戸籍救済の政治家のビラ配りは伏線としては良かったけれど、病気の子供をこの人に託すならもっと早く色々な事ができているわけで……
コミュニティの雑談のようなゆるさの中から殺人未遂の真犯人を見つけ出すのはまあ、良いのだけれど……その動機は納得いかないなあ……
いくら知識がなく、世間が狭いと言っても……
なるほどねえとは思えません。

そして、読者としては、これに驚かなきゃならないのかもしれないけれど……「鳥籠事件」の真犯人。
確かに、意外ではあった。しかしいくら昔とはいえ、こんな保険おりるかねえ???保険会社が相当頑張って調査しそうなものだし。
加えてそんなことする真犯人が、子供の周りをうろうろするだろうか? 
驚くよりも「はああ?」ってなっちゃいました。

ただ、ミステリーではなく、ヒューマンドラマとして読むなら考えさせられます。
無分別な親のせいで、無戸籍となった子供。国籍すら証明しづらいなんて。
法律のせいで無戸籍となってしまう子供。
簡単に戸籍が作れない現実。

法律に問題がある点もあるでしょう。ですが、簡単に戸籍がつくれてしまったらその方法が悪用されるという場合もあります。

法律という決まりの中で平穏に国民として暮らしているのだから、親になる人間が知識を持っていれば避けられたことでもあります。
小さく考えれば、ハナの生活するコミュニティも規則のある国家で、ハナは規則を破ってコミュニティの平穏を破っているわけです。
何かの規則の中で暮らしている人間の自由を主張するために、規則を変えるべきか、変えてはいけないのか? 
無戸籍を救済する政治家しか出てきませんが、無戸籍である子供を産む親を責める政治家がいてもおかしくないなあと感じます。

そう考えだすと、なかなか深いぞこの問題って思います。
その問題の深さゆえに、何か事件が起こるというミステリーならもっと、面白かったかも……って

私の個人的な好みなのだと思いますが「十の輪をくぐる」でも、違和感にもぞもぞした覚えがあって、私は辻堂ゆめさんの作品は、苦手なのかもしれません。作品との相性ってありますよね。


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